海底パイプライン(二百三十二)
『チィィン』「あっ、着きました。こちらですどうぞ!」「うむ」
タイミング良くガチ一階に到着し、エレベーターの扉が開いた。四平は汗を拭う間もなく案内する。その手にはスマホを持ったままで。画面は残念ながら『一機喪失』だ。でもまだあと一機ある。
『早くしろよ。降りるのか降りねぇのか、ハッキリしろ』
四平が『サーベルを収める石井中佐』を見て思ったことだ。
『カチン』と音がした後に石井中佐と目が合ったが、四平は勢い良く首を横に振るばかり。迷惑そうに監視カメラの方を睨み付けた。
「何だねこれは?」「あぁっ! いいえ、何でもないです」
石井中佐が人差し指でスマホの画面を押していた。すると画面上から『再開』の文字が消えて、大音量が鳴り響く。
勿論『四平のイヤホンから』のみで、石井中佐の耳には届いていない。故に、四平が何故『そんなに驚いているのか』が判らないのも致し方なし。まぁ『どうせ碌なことではない』と思うのには十分。
ほら、無線係にしたって『呆れた目』を見れば、以下同文だ。
『フッ。まだそんなところか。甘いな。この低レベルがっ!』
無線係が登場以来、初めて感情をを露わにした瞬間である。
何せ四平がプレイ中の『ゲーム画面』を見て、レベル・所持金・やり込み度・プレイスタイルが即座に判ってしまったからだ。
所詮、先行者の後追いをするだけの、低レベルな争いに過ぎないと感じるのに十分な情報であった。見ていて面白くも何ともない。
特徴のある頭装備、騎乗する機種、兵装、敵を殲滅する戦法、そして回避方法まで。全て無線係が公開している情報を、そのままなぞっているだけに過ぎないではないか。
だとしたら『不敵な笑み』にも、納得が行くというものだ。
「どっちなのかね?」「あぁ右です」『いや、次のボスは左だろ』
エレベーターから降りて来ない四平に対し、石井中佐が左右を指さしている。四平はやっとゲームを中断してスマホをポケットに。
今度は『何も持っていない手』で進行方向を示し、案内を再開だ。
「ここは『地面』なのかね?」「はい。そうです」『しかし、ダンジョンみたいだな』「地下ではない?」「地下は排水しないので」『つまり罠があると? この壁の窪み、怪しい。どれ。異常なし』
先行している四平が、後に続く石井中佐の質問責めにあっていた。最後に続く無線係だけが『何か』を警戒している。
確かに『このフロア』は滅多に人が来ないので、『地下ダンジョン』と呼ばれているのは確かだが、実際は地下に非ずだ。
「このビルは、どうなってるのかね?」「えーっとですねぇ……」
怯えながらの説明によると、以下の通りである。勿論、四平が全てを知っている訳ではない。何せ著者自身もおぼろげにしか決めていないのだから。説明不足は否めない。
アンダーグラウンドは、大雨の際『水路』になってしまう。だから『完全に壁で囲っている』とは言え、それでも『出入口』は作りたい。『洪水が起きる』と『トラックで資材を運搬する』であれば、後者の方が多いに決まっているからだ。
「さっき見えた花街は『二階』に相当するんですよ」「ほう」『だとしたら『階段が安全地帯』とはならないか……』「ですです」
相変わらず警戒を続ける無線係。果たしてその『警戒』が、一体何の役に立つのかは知らぬ。しかし『警戒』に『し過ぎる』なんてことはない。ましてや『命に関わること』であるなら尚更だ。




