海底パイプライン(二百二十六)
笑いながらも『やること』はやっていた。抜かりはない。録画だ。
この辺の施設は衛星写真には写らない。いや、一応は写るのであるが、公開された写真を見ると『一面の海』になっている。
「なかなか壮観ですねぇ」「あぁ。そうだなぁ」
三人は一列になって海の上を歩いていた。ゴム底の鈍い音が響く。
多分あれが『ガリソンプラント』なのであろう。色褪せてはいるが、ひときわ大きい海上油田が見える。今日の目的地ではない。
「結構な距離ありますねぇ」「確かに。あっちは歩きたくないなぁ」
そこから硫黄島に向かって、これまた大きなパイプラインが海上に敷設されていた。その上には、今歩いているのと同じような『通路』があるのだが、沖の方は明らかに波を被っているではないか。
そんなんだからか、今は誰も歩いてはいない。多分移動は船だ。
「こっちはこっちで、結構な距離あるけど」「まぁ、海上散歩と洒落込んでみましょうよ」「せめて『歩く歩道』位、付けてくれよぉ」
中山の『切実な訴え』を聞いて、前を歩く山田と田中が振り返った。ハァハァ言って、やっと付いて来ている中山を見て苦笑いだ。
「ちゃんと付いてるだろぉ?」「歩く歩道がっ!」「俺、そんなこと言いましたっけぇ?」「言ったよ」「言った言った」「えぇえぇ」
中山は『じゃぁ何て言うんだっけ?』と考えているが、山田と田中からの『ヒント』がない。
二人は顔を見合わせた後、もう前を向いてしまった。
「硫黄島に近い油田から『一号』と命名。一号から北に二号、東寄りに三号、ん? あれは二つか? 影になっている模様」
解説も貴重な資料となる。田中が工具箱に仕掛けられた小型カメラで、ガリソンの施設を隅から隅まで映している。現地での実況中継を一緒に吹き込んで置いて、後で解析だ。
ちなみにマイクは、帽子に仕込む念の入れよう。小声でボソボソやっているので、監視機器があったとしても判るまい。
今歩いている海上通路も、大波が来たら波に濡れるのは間違いない。だから通路に『監視機器を設置する』とは考えにくい。
電気製品を塩水の傍に置くだなんて、『どうかぶっ壊して下さい』と言っているようなものだ。設置するだけ無駄である。
「この下もパイプラインかな?」「ライフラインかもしれんな」
今向かっている『フロート』は、設計書によると『パイプラインの中継所』である。汎用的な設計となっており、あるときは複数個並べて『海底パイプライン』を構成したり、陸地の近くではフロートまでパイプを上昇させ『海上パイプライン』への切り替えも可能。
「電気、ガス、水道?」「いやぁ『ガス』はねぇだろぉ……」
中山は口を尖らせている。『ライフライン』と聞いて、『知っているもの』を並べたに過ぎないのに、そんなに言わなくても。
「水道も怪しいなぁ」「えぇ? トイレはあるでしょぉ?」
もう一度足元を見た山田の発言に、中山は股間を押さえて抗議だ。田中はブツクサ言うのを止めて、渋い顔になるしかない。
「あったっけか?」「無いんじゃないすかぁ?」「えぇえぇ?」
見ればフロートの上に、オプションの『小屋』がない。
「何だぁ? いきなりピンチかぁ?」「終わるまで我慢しろっ!」
「今は大丈夫ですけどぉ、俺『ピキッ』て来たら、終わりなんで」
「だったら押さえるの『後ろ』じゃねぇの?」「あっそうでした」




