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海底パイプライン(二百二十五)

「こちらに名前を書いて下さい」「あぁ」「何だ」「そんなこと」

 三人が懐から取り出したのは、金属製の『ボールペン』だ。

 見た的にちょっと太い奴。色を選んで『カチッ』とペン先を出している所を見るに、きっと只の文房具で間違いない。

 ほら、検問所に用意されていたボールペンを断って、窓口から差し出された紙に、笑顔でサラサラッと記名しているし。


「山田様」「はい」「田中様」「うっす」「中山様ですね」

 提出された紙をひっくり返し、上官が上から順に読み上げる。

「ほら中山ぁ」「はい何でしょう?」「何でしょうじゃねぇよ」

 大体予想は付くだろうが、中山は空に浮かぶ雲を眺めていた。


「中山様ですね」「ほら」「はい。私が中山です」「では現場に」

 山田と中山のやりとりを苦笑いて見ていた田中、工具箱を持った男が、再び帽子に手をやってお辞儀する。これでやっと通過だ。


「ちょっと待って下さいっ!」「はいぃ?」「えっと、まだ何か?」

 再び呼び止められて三人は明らかに不機嫌そうな顔に。

 明らかに『しつこい係員だ』と山田は思っているに違いない。田中は左手に持った工具箱に右手を添えて身構えている。中山一人だけが『何か間違えたかな』と不安を露わに。

 そもそも『何と言ったか』を、ちゃんと聞いていなかった節も。


「そちらのボールペンも金属製でしたら、ゴムで覆って下さいね」

「あっ」「こちらは『硬質プラスティック製』なので、大丈夫です」

 田中が遠目にカチカチやって誤魔化そうとしたのに、うっかり山田が反応してしまって。すると田中は冷静に左足を持ち上げると、工具箱を下から支え、箱の蓋を開けた。ニッコリ笑って言う。


「念のため、工具箱に入れときますね」「そうして下さい」

 言うが早いかもう『カラン』と入れている。山田にも目配せだ。

「じゃぁ、俺のもよろしく」「はいはい。ホラ中山ぁ、お前のもだ」

 中山は見た目通り『頭が悪い』のか、ポカンとしている。

「俺の?」「そうだよ」「俺のはデカいぜ? 工具箱に入るかな?」

 頭が悪いんじゃない。相・当・悪・い・ようだ。ズボンのチャックに手をやったではないか。田中の膝蹴りが飛んで来たので、下まで降ろしたりはしなかったが。

「今、そう言うの良いからっ! 怒られる前に早くしろっ!」

「はい。すいません」「こいつぅ、いっつも緊張感が無くてぇ」

 山田が苦笑いで説明をしている間に、中山のボールペンも無事工具箱に入った。田中の目は『今度馬鹿やったら当てるからな』だ。

 検問所の上官は、厳しくも呆れた表情で一部始終を見守っていたが、溜息混じりの一言を添える。


「結局は皆さんの『安全のため』ですから」「そうですよねぇ」

「では、ご安全に!」「ご安全に!」「ご安全に!」「ご安全にぃ」

 敬礼をした上官に、田中、中山、山田の三人は、あれ? 山田、田中、中山の三人? 違うか。山田、田中、中山の三人は、お辞儀をして無事通過した。いやはや。折角名前を決めたのに、作者自身も『どれが誰だか』判っていないのだろうか。如何にも適当に付けやがって。記名した三人には、文句の一つも言いたい所だ。


「上手く通過出来ましたねぇ。山中さん」「馬鹿。山中はお前だろ」

「そうだよ。お前が『一番最初に記名する』って、言ってただろ?」

「いやぁ、だってホラァ見て下さいよぉ。あの雷雲、絶対『うんち』に見えませぇん?」「だからってダメだろ。違うモンに例えろよ!」

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