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海底パイプライン(二百二十四)

「おはようございます! ご苦労様です!」「おはようございます」

 良く晴れた朝に元気な声。爽やかな朝の挨拶だ。

 検問所に詰める二人も挨拶を返したが、一人は目を丸くして会釈をしただけ。それでも、にこやかに現れた三人が『挨拶が無い!』と、咎める様子はない。懐に手を入れて近付いて来る。


「良い天気だ。今日は物凄く、暑くなりそうですねぇ」

 そりゃそうだ。気の弱そうな『如何にも新人』な奴で、仏頂面で挨拶を返した『上官』の方に目が行っている。

 新人が『誰でしょう』と、明らかに不安げな表情で上官の顔を伺っているが、上官は見向きもしない。ジッと三人を見つめたまま。


「いや『今日も』ですよ」「あぁ、そっかぁ」「ハハハ」

 懐から出て来たのは細長い『茶封筒』であった。手元も見ずに、振り返って後ろの二人と楽し気に話している。

 何てことはない。緊張感の欠片もないではないか。


「これ、お願いしまーす」「お預かりします」

 茶封筒を目の前に突き出された上官は、『机下のボタン』から手を離した。赤色の大きなボタンで、今この瞬間床面から見れば、横に『非常』の赤い文字が見えることだろう。しかし上官が、新人に『顎で合図』するのと同時に、いや、足を踏んだのと同時に見えなくなった。今度は新人がボタンに手を添えたからだ。

 新人は上官に比べて演技が下手過ぎる。肩の高さが左右で合っていないのだ。如何にも『ココに何かありますよ』な感じが見え見え。


「何の御用ですか?」「バルブの点検です」「直ぐ終わります」

 それでも『何とかなっている』のは、現れた三人が新人の方など気にもしていないから。眩しく光る『海の向こう』を眺めている。

 一人は『遠いなぁ』と、もう一人は『工具はコレ』と。そしてさっきは『ハハハ』と笑っただけの一番頭の悪そうな奴は、『かき氷食いてぇ』とでも思っているのか。遠くの雲を眺めて舌なめずり。


「工具箱を開けて」「はい」「ちゃんと『ゴム』付けてまぁす」

 事前にココが『重油を扱う場所』と、聞いていたからだろう。

 それにしても、ぶっきらぼうに言われても明るく対処している。寧ろ茶封筒を出した男が茶化し気味に言っているが、上官は『仕事ですから』と笑いもしない。まぁ、それが当たり前か。見習え新人。


「危ないから、ですよねぇ?」「はい」「何か『エロ』いなぁ」

 普段から『こんな奴ら』しか、硫黄島には居ないからだろう。

 ゴムと言えば『コンドーム』のことで、危ないと言えば『妊娠』を意味しているのは確実。そりゃぁ女が居なければ『別の穴』で代用、ゴフンゲフン。おっと、土曜の夜に『リアルな表現』は不要か。


「はい。大丈夫です」「ですよね」「ありがとうございまぁす」

 確かに工具箱の中に『怪しいもの』や『規定違反』のものはない。

「ほら行くぞっ!」「えぇえぇ? あぁハイッ」「どぉもぉー」

 まだ空を見上げていた間抜け面に、背面からの一撃が。

 後頭部を『ペチン』だ。叩かれた方は、危うく舌を噛み切りそうになっていたが、そんなことは知らぬ存ぜぬか。

 工具を持つ男だけが帽子に手を添えてお辞儀。足早に通り過ぎる。


「あぁ、すいません。少々お待ち下さいっ!」

 検問所を『無事通過した』と笑っていた三人の表情が、一気に強張る。そして再び懐に手を入れた。今度は三・人・同・時・に、だ。

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