海底パイプライン(二百二十三)
「良いから説明を続けろよぉ」「ホラ、お前のせいで怒られちまったじゃねぇか」「えぇえぇ……」「あぁ、さっきの奴に、どうやって行くんだ? まさか正面から『こんにちは』って行くのかぁ?」
黒井はイラついていた。五十嵐が『やりまくっていた事実』に。
「何時間プレイしていたとか、聞かないの?」「良いから続きっ!」
例え『会社をクビ』になったとて、それはまだ『羨ましい』と思えるレベルだ。何しろ『上官の妹』に手を出した日にゃぁ、上官の親まで出て来る始末。親子揃っての攻めは肉体的精神的苦痛を伴うもので、いつ殺されてもおかしくはなかった。
勿論、その後も諦めることなく、美味しく頂きましたとさ。
なのに、こちとら『こっちの世界』に来てからと言うもの、全く機会がない。この間見掛けた『琴坂琴美』が、『めっちゃ可愛い娘』に見える程に溜まっている。見てろ。五十嵐がナンボのモンじゃい。
「正面から行くつもりだけど?」「はぁ? 『こんちはっ』てぇ?」
黒田にしては『素直な案』だ。てっきり『何かしでかす』と思っていた黒井にしてみれば、それは至極真っ当な行為だけに疑わしい。
「まぁ普通は『おはようございます』だろうけどさぁ」
ほら見ろ。やはり黒田はまともではない。黒井は忘れてなんかいない。ついさっきは『強奪する』と言っておいて、その作戦の開始は『おはようから始まる』と言うのだから。
「そこは別に良いんだよ『おはよう』でも『こんばんは』でもよぉ」
「何が良いんだ? 挨拶は大事だろうがぁ。なぁ?」「えぇまぁ」
何に拘っているのか。話を振られた五十嵐も困惑するだけだ。
「どうやって行くんだ? ヘリかぁ?」「無理に決まってんだろ」
あっさりと否定されて、黒井は『そりゃそうだ』と思う。硫黄島まで『ヘリで行こう』なんて奴は居ない。そんなこと百も承知だ。
具体的な指示がないから困っているのだ。いつもそうだけど。
「じゃぁどうやって行くんだよぉ。今からは行かないけど『明日になったら行く』とか言い出すんだろぉ?」「おっ流石は相棒! 良く判ってるじゃないかぁ!」「ちょっ! 待て待て待てっ!」「いやぁ、やっぱり黒井は『行きたい』て言うんじゃないかなぁって、思ってたんだよなぁ」「行かない行かない」「ほら五十嵐ぃ、お前も段々と行きたくなって来ただろう?」「いいえ遠慮しますぅ」「そうか! 行きたいかっ! よぉし、ここは一丁張り切って、送り出す準備しよっかなぁ!」「じじぃっ、人の話を聞けっ!」
曲げた両腕を前後に振りながら機嫌良く話す黒田に、黒井は思わず叫んでいた。『猫騙し付き』で。しかし効果はない。
「じじぃ、テメェは行かねぇのかよっ!」「だって俺、明日は用事あるしぃ」「こんな『重要な作戦がある』ってのにぃ?」「おっ、重要って判ってんじゃん。流石だなぁ」「いやテメェは私用で休んでいて良いのかよって! いっちゃん『偉い奴』なんじゃねぇの?」「おぉそんな偉い人を『じじぃ呼ばわり』してぇ」「うるっせぇっ! じじぃはじじぃだから『じじぃ』って呼んでやってんだ! 有難く思えっ!」「だ、そうだけど、どう思う?」
ニッコリ笑った黒田が肩を竦め、辺りを見回している。それを見た黒井も『左右を』と思うが見るまでも無い。全ての視線が黒井に突き刺さっているのを感じる。『視線が痛い』とはこのことだ。
「いや大佐ぁ、確か明日が『突入の日』でしたよねぇ?」「正解!」




