海底パイプライン(二百十八)
「また何『物騒なこと』言ってんだ。冗談は止めとけ? じじぃ」
軽く流して終わりにしようと思ったのだが、黒田の勢いは増す。
「冗談じゃないよぉ」「いや、そんな冗談みたいに言われてもぉ」
互いに笑いながらも『真意』について探り合いを続けていた。
空母。実際は『元・空母』だが、立派な『軍艦』には違いない。それを本気で奪取しに行く奴なのだ。『冗談じゃない』と否定されれば、それを『冗談じゃない』と否定したくもなる。
「ちょっと『燃料補給』に、難があってなぁ」
「だったら素直に『ガソリンスタンド』に行きましょうよ」
意味深に言う黒田を制して黒井が反論する。しかしその瞬間、ニヤッと笑った隊員達が振り返った。誰も突っ込んで来ないが、視線を感じた黒井にだって、『理由』は明らかだ。はいはい。
「ガリソンスタンドでしたね」「いや、ガリソンじゃねぇんだ」
『クスクス』『フッ』『知らねぇのかよ』『モグリじゃねぇの?』
雑多な心の声が聞こえて来て黒井は顔を顰める。『じゃぁ何だよ』と言いたいが、目を合わせようとするとドンドン逃げて行く。
避けられているのだろうか。黒田より確実に『良い人』なのに、どうやら黒井の味方は一人も居なさそうだ。何だか居心地が悪い。
「潜水艦に補給する『重油』を頂きになぁ?」「何すか潜水艦って」
『おいおい』『マジか』『嘘だろ?』『潜水艦も知らねぇのかよ』
その一言にまた反応しているが、黒井はもう目を合わせには行かなかった。馬鹿馬鹿しい。知ってるって。潜水艦だけじゃないが、船舶のディーゼルエンジンが『重油で動く』ということを。
言いたいのは『何で潜水艦なんかを保有しているのか』である。
「お前、乗っただろう?」「えっ? あぁ、そう言えば……」
言われてから思い出す。マグロ漁船から飛び降りて、『イー400』にすくい上げられたことを。正確には『イー407』だが。
「もう一度乗るかぁ?」「いや待って」「何だよ」「あれ『海兵隊所属』なんすか?」「いんやぁ?」「おいおいぃ。じゃぁ何でぇ?」
はぐらかされているのか、どうも要領を得ない。黒田は笑顔で『困った素振り』をしているが、絶対に困ってなんていないだろう。
それでも周りを見渡して、聞こえるように呼び掛ける。
「何でって言われてもなぁ?」「ハハハ」「ハハハ」「ハハハ」
一斉に乾いた笑いだ。『事情を知る者』にしてみれば、至極当然なことなのだろう。しかし『ココ』に半ば『拉致』されて来たも同然な黒井にしてみれば、理由が判るような、判らないような。
「やっぱり『人徳』なのかなぁ」「その通りっ!」「流石は我らが大佐! 判ってらっしゃる」「人徳っ正解です!」「ハイハイハイ」
判りたくもなかった。黒井だけ納得出来ていないが、納得度合いは多勢に無勢。どうやら民主主義の『悪い所』が出てしまっている。
「凄いですね。凄いですねぇ。じゃぁ別の誰かを連れてけよ。その『海底パイプライン』とやらへはさぁ」「えぇえぇ? 一緒に行こうぜぇ?」「嫌だよ。俺は空を飛びたいんでぇ。海の中なんて、まっぴら御免っす」「でもぉ、他の奴らは『役割』があってだなぁ?」
絶対に言い訳である。が、黒井が『ご指名』なのは、あの『ガリソンスタンドでの出会い』から既定路線なのだ。ムカつく。
麻婆茄子定食ご飯大盛ラーメンセットが、ここまで尾を引くとは。だったら『チャーシュー麺』にランクアップしておけば良かった。




