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海底パイプライン(二百十二)

 砲弾が飛んで来ない。発射音を確かに聞いてから、既に二分が経過していた。空は青いままだし我々も生きている。何故か。

 いやいや。生きているのは良いことだ。


「もしかして『外した』とか?」「えっ?」「あっ!」

 黒服の一人が思い付いて呟くと、同調者が二人。いや三人。

 しかし『ビルの外』を眺めようにも、ここは地面が見える場所ではない。屋上が広過ぎるのだ。それでも直ぐに判ったことがある。

「いや、爆発音が無い」「あぁそう言えば」「流石に聞こえるか」

 湧き出た疑問は勝手に解決したようだ。だとしたら答えは一つ。

「何だ『空砲』だったのかぁ?」「脅かしやがって」「そうだよ」

 場が一気に和やかになった。ならばと笑いもよみがえる。

 そう。我々は助かった。砲撃なんて、最初から無かったのだ。


「いやいや。一発食らっているだろうがっ!」「あっ、そうでした」

 若頭が現実に引き戻す。しかし黒服から笑顔が消えない。後頭部を自分で『ペチン』と叩き、その上『ペロッ』と舌まで出して。

「そうでしたじゃねぇっ!」「いてっ!」

 片目まで瞑って『若頭にアピール』してしまっては、若頭が怒り出すのも当然と言える。若頭は男に色目なんて使われても、全く嬉しく無いからだ。誰が何と言おうと年増のお姉さんの方が好みだし、包容力もマシマシでお願いしたい。

 当ビル四階にある、『スナック朱美』のママみたいな。


「じゃぁ行くか」「はぁ?」「いや、下の階へ?」「四階?」

 若頭に声を掛けたのは石井中佐である。もう忘れているかもしれないが、多分下の階。四階なの? で監禁されているであろう井学大尉とあと一人。えーっと、あぁそうだ思い出した。臼蔵少尉だ。

 が、生きていればだが、遺体を引き取るつもりで言っている。

「まだ営業時間にもなっていないけど?」「何の話かねぇ?」

 若頭は、ついうっかり時計を見ながら言ってしまっていた。

 後悔先に立たずだ。しかし石井中佐は、さっきまであんなに何度も時計を見ていた癖に、こういうときだけは見ないのか。卑怯者め。


「人質だろぅ?」「そうだよ早くしろっ。四階にいるのか?」

 石井中佐は既に歩き始めていた。内ポケットから出した扇子で非常階段を指し示し、そちらの方へと。

 早足で歩きながら『パチンッ』と勢いのままに広げると、パタパタと仰ぎ始める。八割は涼しさを求めて。二割はホッとしてか。

 いや、若しくは『逆』かもしれない。真偽は不明だ。ただ少なくとも『若頭の案内なんて不要』と言わんばかりなのは判る。


「そ、その前にテメェ、『あの穴』は一体どうしてくれるんだ!」

 誤魔化すように若頭は叫ぶが、黒服には判っていた。

 人質が居るのは『アンダーグラウンド』だし、若頭が普段から『四階に行く用事』と言えば『スナック朱美』と決まっているからだ。

 ちなみにだが、四階に『京極組のシマ』は無い。完全に『アウェイ』なのであるが、『それでも通いたくなる店』なのだろう。

「知らん。そんなの自分で直せ。こっちは忙しいんだ」

 振り返らずに言い放つ。それだけでなく、警戒している無線係を呼び寄せ『何処だろうなぁ?』と聞いているではないか。

 これはまだスナイパーが陣取っていたならば、絶対に殺されているであろう態度だ。しかし無線係の目が怖い。


「若頭ぁ。明日組長、帰って来ますよ? どうするんですかぁ?」

「どうするってぇ」「家の理事室、あの辺って噂ですよ?」「!」

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