ガリソン(十三)
翌日、昨日の雨はまるで嘘のように上がり、朝から良い天気になっていた。せっかく『梅雨入り』したと宣言したのに、翌日から晴れでは意味がない。この責任は、誰がどう取ってくれるのか。
「おはよー」
「おはよー。あら、お休みなのに早いのね」
琴美は窓の外を指さした。
「晴れてるよ?」
学校あるんでしょ? そのつもりで言い返すと、母は窓の外を見ながら言い返してきた。
「晴れているのは朝だけよ」
「そうなんだ」
「そうよ『天気予測』で言ってたわ」
「へぇ。ありがとう」
つい礼を言うと、母は笑顔になった。こっちもちょっと照れて、ポリポリと頭を掻く。別に痒い訳ではないが。
「優輝起こして来て頂戴。皆で食べましょう」
機嫌が良くなったとしても、朝のルーチンは変わらないようだ。母は再び台所へ消えた。
「はぁい」
あくびをしながらくるりと向きを変える。琴美はだるそうに折り返す。今降りて来た階段を再び昇って、優輝の部屋へ行く。
「優輝ー、入るよ」
昨日ノックをしろと言った手前、一応ノックをしてやろう。そう思いながら琴美は優輝の部屋に入った。優輝はまだ寝ている。
「ごぉはんだよぉ」
返事がない。でも聞こえているに違いない。琴美はそれで役目を終えた。どうせごはんを食べられないのは優輝なのだ。
「起きないと、お父さんが来るよぉ」
そう言って部屋を出た。半分冗談で、来る確証はない。
耳を澄ますと、部屋の中から優輝が飛び起きる音が聞こえてきた。ま、こんなもんだ。無理に揺すったりする必要はない。
優輝に一部屋与える条件が『きちんとした生活』だった。
起きて来なくて、父が部屋に乗り込んだ時。それは、三百万ボルトの雷が優輝を直撃することを意味する。
そうなってから雷雨のように涙を流しても、父は許してくれぬ。
「優輝起きた?」
「うん。起きたみたい」
新聞を読みながら母と娘の会話を聞いていたのか、父が言った。
「そうか。偉いな」
偉くはないだろう。基本、父は甘い。そう思いながら琴美も台所へ行き、母が手を伸ばした皿を受け取る。
四人分の食事の支度が揃った頃、優輝が堂々と現れた。
それを見て、父が新聞を畳んでソファーに投げる。何気なく琴美が折り畳まれた新聞を見ると、なにやら大事件があったらしく、大きな見出しが躍っている。しかし、大きすぎて全部は読めない。
『で千五百人死亡。重傷者数万人』
とてものん気に朝ごはんを食べていられるニュースではない。
しかし、今日もテレビはアニメである。琴美は悪い夢の続きを見ている気がしたが、少なくとも自分の家族は『平和そう』なので、悪い夢というのは取り消した。