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海底パイプライン(二百八)

「仕方ない。連絡しておくか」「こちらです。どうぞ」「うむ」

 無線係は『ココを押して下さい』と、マイク横のスイッチを示しながら渡した。後は押して話せば直ぐに用事は終る。

 いやだから早くって。足元でうずくまっている若頭の心配は不要。先ずは『中止命令』だって、本人もそれを一番望んでいた訳だし。


「あーこちら、東京の石井だ。どうぞ」『ザピーッ』

 やっとだ。しかし返事が無い。口をへの字にして若頭を見た。まだ痛そうだが、容態に急変の兆しはない。まっ『黄色だな』と。

 しかし『無線の使い方』なんて良くは知らないが、多分話すときは『手元のボタン』を押して、相手の話を聞くときは離すと。

 何だ『話す』と『離す』を掛けるんだったら、『押すときに黙っている』ようにすれば良かったのに。知らんけど。


「あーこちら、東京の石井だ。どうぞぉ?」『ザピーッ』

 今度は若頭を眺めながら大和を呼び出しに掛かる。

「テメェこらっ! 若頭に何しやがる」「黙らっしゃいっ!」

 ついでにつま先を若頭の肩に引っ掛け、ヒョイとひっくり返してみるが、何だ息はしているし、意識だってちゃんとあるではないか。

 これなら命に別状はない。『緑色に格下げ』で全然問題なかろう。


「これ、あってるよね?」「問題ありません」「問題ありだろっ!」

 取り巻きからの声に、質問した石井中佐が反応していた。

 しかし表情は『煩いなぁ』である。直接手を出さなかったのは、若頭が何とか左手を使い『静止させたから』に他ならない。

 そうだ。質問をしたのは『無線係へ』なのだ。取り巻きなんぞに『声を掛ける権限』すら認めておらぬ。まぁ『部下の不始末』を、上司である若頭が責任を持って対処するのは当然のこと。


「あーこちら、東ぉ京ぉの石井だ。どぉぞぉぉっ?」『ザピーッ』

 三度『応答なし』とは如何に。石井中佐は顔を顰めると、マイクを指さした。『実は壊れてんじゃないの?』と。

 勿論無線係は直ぐに腕を振り『壊れていません』をアピールだ。


『ザピーッ。こちら大和。現在無線封鎖中ですg』「(カチッ)作戦は中止だ。もう砲撃を止めて良い。どうぞ?」『ザピーッ』

 大和からの応答があった瞬間、石井中佐と無線係は笑顔で目を合わせた。無線係は『ほら大丈夫でしょ?』とホッとした表情に。石井中佐も『あいつらモタモタしてっから』と苦笑いだ。当然のように大和側の報告をぶった切って、一方的に中止命令を下した訳だが。

 どうだぁ。これが『司令官としての威厳だ』と胸を張れば、『流石です』とばかりに無線係も頷く。さぁ、やっと井学大尉に逢える。

 マイクを無線係に渡そうとした、その瞬間だ。音声が入った。


『主砲全弾発射っ!』『ドドォォォン』『艦長っ中止命令ですっ!』

 その場にいた全員が確かに聞いた。大和からの『生中継』を。

 そして青ざめる。いやいやいや。ひっくり返っていた若頭は寧ろ、上半身をスクッと起こして生き返ったではないか。おめでとう!

 しかし石井中佐は医者として、『トリアージで緑色と判定した若頭』を、気にもしていなかった。それよりも昨日のことを思い出す。


『一発撃って言うことを聞かなかったらぁ、もう全弾撃って構わん』

 軍医の見立として、『一分後に全員黒』と判定されるのは確実だ。

 思わず無線機のマイクを強く握り締めて叫ぶ。

「大和応答せよっ! 砲撃は中止だっ! 砲撃は中止ィィッ!」

 興奮して強く握り締めるから、話すときは『離すな』なのかと。

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