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海底パイプライン(二百四)

「うわマジで撃ちやがったっ!」「冗談にも程がある!」

 小さなノートパソコンのディスプレイを覗き込む男達。

 幾つもの頭と顔が折り重なって一塊となっていたが、それが一瞬にして瓦解する。見えた全員の目が随分と血走って。


「この角度だと、砲弾は何処まで飛ぶんだっ!」「これ、大体最大仰角だよなぁ?」「仮定して計算しろっ!」「主砲の射程って何キロ?」「二十? 三十?」「いやもっとだろ」「そんなに? だったら陸地まで、届いちまうじゃないかよ」「マジか!」「マジマジ」

「落ち着け。だったら計算しなくたって、直ぐに判るだろ」

 電卓を出す者、計算尺を出す者、はたまた何故かノギスを出す者まで。一番落ち着いている黒田は、コンパスを取り出して広げる。

 それを広げていた地図の縮尺に合わせると、『大和』と手書きされた点に針を突き立て、鉛筆の方で少しばかり円形の線を引く。

 その後はコンパスを放り投げて腕を組んだ。『うーん』と唸る。


「四十キロだとこの辺まで来るな」「こんな所まで飛ぶんですか?」

 それは『海兵隊の秘密基地』を大きく飛び越えて、かつてあった隅田川の最上流付近にまで達している。

 丁度『ブラック・ゼロ』が支配するエリアだ。黒田の顔が渋い。

「これはひょっとすると、人工地盤が割れるかもしれんなぁ」

 設計寿命二百年。ローマンコンクリートの謎を解き明かし、武甲山の全てをつぎ込んで作られた人工地盤は、そのまま中層ビルの基礎になるほど分厚い。大体二から三メートルはあろうか。


「幾ら主砲弾でも、そこまでの被害が出ますかね?」「九発だぞ?」

 助言した男に黒田は直ぐに反論。あらら。論破されてしまった。

 黒田もかつて『大和の艦砲射撃』を当てにしたことはあるが、実際目にしたのは初めてだ。あのときは、分厚いコンクリートで塗り固められた要塞を、いとも簡単にぶち抜き大いに喜んだ。中にはまだ『自分が送り込んだ部下』が二人、居たかもしれないのだが。

 その経験を踏まえると、考える前に行動を起こさねばならぬ。


「ブラック・ゼロ本部に打電。『一分以内に西へ退避せよ』だっ!」

 無線係に指示して、黒田は再び地図を睨み付ける。

 拠点近辺の人工地盤上は相変わらず下町で、防御壁となるような頑丈な建物は少ない。主砲弾を食らえば木造住宅など無いに等しい。

 果たして何発まで耐え、何発がアンダーグラウンドまで降り注ぐのか。いや、そんなの数える間も無い。『見えた時点』で終わりだ。


「誰か居ますかね?」「早くしろっ! 砲弾は待ってくれんぞ!」

「はいっ」「何も持たんで良い。兎に角『西へ急げ』だ」「はいっ」

 まだ連絡していなかった。それとも呼び出し音が鳴っているけれど、誰も出ないだけか。だったらあらゆる手段を講じて、連絡を付けるのみ。無線係もそれを理解して、無線機を持ったまま黒電話の受話器を取り上げた。黒田は時計を見る。ほらぁ。グズグズしているから、もう十七秒も経過しているではないか。


「なぁ? やっぱり大和って『ヤバイ奴』じゃねぇかよっ!」

 黒井が腹パンを決めたのは三浦少尉だ。グゥの音しか出ない。

「あんまり虐めんな」「虐めてないっすよ」「勘弁してやれって。作戦に忠実だっただけなんだからぁ」「大佐ありがとうございます」

 黒井は納得が行かないのか、三浦少尉を指さした。拳銃の形で。

「こいつぅ、銃まで向けやがったんですよぉ? こうやってぇ」「すいません中佐殿」「まぁまぁ。コレよりマシだろうがぁ。なぁ?」「そういう問題ぃ? ジジィは他の奴には甘いんだからさぁ……」

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