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海底パイプライン(二百二)

「それは……?」「艦長、主砲全弾装填完了です」「判った」

 副長の真面目マジメェ山本は考えていた。艦長の『配慮』のことを。主砲九発の内『八発を空砲にする意味』について。

 銃殺に使う銃なら意味もあろう。誰かが弾込めしてランダムに渡す。しかし『主砲の砲弾』は『専任の係員』でないと弾込め出来ぬ。


『あれ? これ空砲じゃねぇ?』『何言ってんだよ。ちゃんと艦長承認有の指定された奴を持って来たぞ?』『本当かぁ? どっかで間違えたんじゃねぇの?』『間違えねぇよ。なぁ?』『あぁ。ちゃんと二人でチェックしたし』『でもコレ、どうみても空砲だし。あっ、班長ぉ? 何か聞いてますぅ?』『んんっ? 何だぁ? 急げよぉ』『いや班長ぉ。これ空砲っすよ?』『本当に良いんすかぁ?』『どれぇ。あちゃぁ家、空砲だったかぁ?』『何すかそれ』『あぁ。砲台長の指示。良いんだ。空砲で良い』『了解っす』『火薬は規定量な。ガッチリ六個入れとけ』『はい』『あれ? 班長ぉ?』『何だよ。急げって言ってんだろ。時間無いんだぞ!』『見て下さい。こっちは実弾っすよぉ……』『おぉおぉ』『キタコレッ』『実弾カモーン』『お前らしっかり装填しろよっ!』『アイアイサーッ!』

 山本少佐は一人一人の顔を思い浮かべつつ、性格も考慮しながら想像を巡らせていた。明るい職場だが、明るさを極めし瞬間に『全員死亡』が確定する、危険と隣り合わせな現場でもある。

 だから別に『配慮』などしなくても、割と『淡々と装填するのではないか』と、想像するのは容易だ。訓練と違いニコニコしながら。


「良し。では発射スイッチをこちらへ」「はい」

 艦長自らが『主砲全門発射』を行うらしい。山本少佐は慌てる。

 だったら尚更に『配慮』など必要ないではないか。一体何を考えているのやら。当の本人にしたって、発射スイッチを握り締める手に、特段の緊張は感じられない。ストップウォッチで『十秒当てクイズ』をするかのように、若干張り切っているのみ。


「確率が上がったタイミングで押す。全員主砲発射に備えよ」

 またまた山本少佐は慌てる。指定された時間を無視して、片桐大佐は発射を敢行するつもりだ。もし『映画』のように、『一秒前に中止命令が来た』ら、どうするつもりなのだろうか。

 まさか『今出ました』と、釈明でもする? 蕎麦屋のように。


『ブーッ。ブーッ。ブーッ』「艦長のタイミングで主砲発射。砲台員は退避場所へ」「甲板員全員退避完了を確認」

 艦橋内が騒がしくなったが、それも一瞬のこと。あっという間に準備が整って仕事が無くなる。すると係の半分は『命中率表示』を。もう半分は、艦長の手の中にある『発射スイッチ』を、いずれも固唾を飲んで見つめていた。時計を見ている者は最早皆無だ。


「そろそろ結論は出たのかね? あと一分を切ったが」

 そのとき、一人だけ『時計を見ている男』が確かにいた。

 大和に『定刻での発射』を指示した、石井中佐その人である。ニヤリと笑って腕を降ろし若頭の方を眺める。そのままもう一度、チラっとだけ時計を見た。秒針がやけにゆっくりと回るように思える。


「何も見えないぞっ! おい、バズーカ持って来いっ!」「へいっ」

 若頭が振り返り、後ろの黒服二人に指示した。直ぐに走り出す。

「そんな物を持って来ても無駄だ」「嘘付けっ! ヘリが来るんだろう? さっきのヘリか? 戻って来たら撃ち落としてやるっ!」

 この際『何が来る』のか、教えてあげても良いような気もするが、石井中佐は何も知らずにニヤニヤするのみだ。チラっと時計を見て。

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