海底パイプライン(百九十九)
「未確認飛行物体の撃墜完了。残存飛翔物なし。本艦に被害なし」
対空砲を操作する係員が淡々と状況を報告し、再び沈黙に戻った。
すると『今の報告』を聞いた副長の山本少佐が渋い顔になる。
「今の本当に『未確認』ですかぁ?」「そうに決まってるだろ」
指摘を受けた艦長の片桐大佐は『至極当然』な表情だ。しかし『信頼できる副官として』なのだろう。苦言は続く。
「でもぉ、横っ腹に『何とか新聞』って文字が、見えたようなぁ?」
「無い無い」「ヘリが横向いたときにぃ?」「無人機だ無人機」
その気になれば『映像で確認する』ことも出来るのだが、どうやら『艦長権限』で無人機に確定してしまったらしい。
まぁ実際? 警告を無視して飛来していた『ドローンの類』を、全て撃墜していたのだから判らなくもない。
「まぁ、しょうがないですか」「あぁ。警告はした」
戦闘態勢の戦艦に許可なく近付いたなら、それは『敵機と見られる』と理解した方が良い。『誰か乗ってる』とか、全然関係ないし。
民間のヘリなんぞ、対空砲火を食らえばひとたまりもない。
「確かに。だけど『発砲』と、ほぼ同時でしたけど……」
「良いんだ気にするな。『警告した』と、記録には残っている」
何せ戦艦大和は『戦闘区域』を宣言し、一切の飛翔物について『接近禁止』を通達していたからだ。警告したにも関わらず、『なお接近した方が悪い』と言い切る所存であるからにして。
「艦長ぉ、横須賀からの問い合わせが、すんごいんですけど……」
すると今度は無線係が振り返った。ヘッドフォンを外すと、そこから『こら大和っ! 何をやっとるんだっ! 応答せよっ!』と響いて来そうな大音量。いや『艦長の耳』には入らないだけで、現に響いているのだが。無線係も凄く嫌そうな顔をしている。
傍から見れば『横須賀の判断』は正しい。何せ大和が『作戦区域』として閉鎖したのは、沢山の船が往来する東京湾内なのだから。
しかも富津岬の沖合である。よりによって、東京湾の『一番狭い所』を封鎖しているのだから始末が悪い。
見れば沢山の船が、海上で『立往生』しているではないか。
皆遠巻きに眺めているが、大和が怖くて仕方がない。近代化改修した大和にはミサイルだって積まれているし、何しろ主砲全門が空を向いていて、どう見ても『今から撃ちまーす』に見えるし。
「気にするな。現在隠密作戦の遂行中につき、無線封鎖中だ」
言い切る艦長の言葉に、無線係はヘッドフォンを指さした。
「そう答えます?」「無線は『封・鎖・中』だ」「はい……」
もう一度、今度は強めに言われて無線係はヘッドフォンを睨み付けた。だったら『聞させんな』と言いたい。しかしこれも『任務』なのだから致し方なし。
もう『耳栓をしてから』ヘッドフォンを装着したいよ。
「主砲全門に九一式徹甲弾を装填せよ」「艦長ぉ……」
時計をチラっと見た片桐大佐に迷いはない。何とか思い留まらせたい山本少佐とは、至極対照的な表情だ。
「主砲全門に九一式徹甲弾を装填。そのまま指示を待て」『ガチャ』
マイクを切った主砲係が不安そうに振り返る。今頃は主砲係が『発射用の火薬』を詰め込んでいるだろう。近代化しても、何だかんだ言って『主砲の弾込め』だけは手作業に落ち着いたが故に。




