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海底パイプライン(百九十四)

 石井中佐は首を捻り、笑いながらすっとぼける。かなり怪しい。

 この無線係は、司令部で中将に怒られた後に中将から『お前付いて行ってやれ』とご指名の中将側近だ。故に『弱い』訳は無かろう。

 だからと言って『一応民間人』を、ひと捻りに葬るかは不明。

 後ろに下がる横顔をチラっと覗き見れば、ほら今のが『本気ではない』のは明らかだ。目を見れば判る。落ち着いて座っているし。


「人質の無事を確認してからでないと、何も約束出来ませんなぁ」

 若頭は辰也から『石井中佐に関する情報』を聞いていた。だから『成程。予想通りだ』と思う。後で辰也を褒めてやらんと。

 本来なら被害額の説明をして、更に値段を吊り上げてから『人質とご対面して頂く』のが筋であろう。しかし今日は違う。

 組長不在の今、留守を預かる身として『示談交渉』をキッチリまとめ上げることが最優先だ。兎に角被害が甚大なのだから。


「あんたこっちが下手に出ていりゃぁ、いい気になってんじゃねぇぞぉ? わりゃぁ」「そうだ。人ん家に突っ込んどいて『加害者は無事か』はネェだろぉっ!」「こちとら被害者もいんだぞっ!」

 しかし周りが騒ぎ出す。コイツ等は『辰也の話』を聞いていない。

 何しろ若頭が辰也から話を聞いたのは、ついさっき『踏ん張っているとき』だったのだから。暑い所で冷たいドリンクを二杯飲み、キュンと来たのが原因だ。手を洗って直ぐにココへ戻った。

 だから『周りが騒ぎ出す』というのは、『若頭が考えた当初のストーリー』に沿っているのだ。こうなっては暫し待つしかない。


「怪我人が居るなら、軍で面倒を見よう。何人いるのかね?」

 石井中佐は足を広げ、ピンと背筋を伸ばして問う。いくら外野が騒ごうと飄々としたまま。完全に見下して『チンピラ扱い』だ。

「ふざけてんのかぁ?」「そんなの、テメェで握り潰した報告書に書いてあんだろっ!」「ちゃんと見ろやっ!」「ホラ拾えぇっ!」

 誰も拾わないが、報告書は『石井中佐の足元』に転がっている。

 声の主を一人づつ蔑むように顔を向けていた石井中佐だが、唾が掛かったと見えて白いハンカチを出す。迷惑そうに顔を拭き始めた。

 その際チラっと足元を見たが拾わない。それ所か声の主に『何を?』と問うように薄笑いだ。いや『それはお前にやる』だろうか。


「私は軍医だ。怪我人が居るなら、ココで診てやるぞ? タダで」

「テメェみたいな医者に掛かりたくないわっ!」「そうだそうだ!」「診察なんか良いから、金を払えって言ってんだよっ。このタコ!」

 相変わらず外野は煩い。石井中佐の一言に三倍以上は罵声が浴びせられている。それでも一瞬『タコ』に反応したかに見えた。

 いや違う。『単なるタコ違い』だったようだ。薄笑いに戻った。


「なんだ。本当は『怪我人』なんて、居ないんじゃないのかぁ?」

「だったらテメェを怪我人にさせても良いんだぞぉっ!」「いつまでもふざけたこと抜かしてんじゃねぇっ!」「早く金払えやっ!」

 今度は無線係が反応していた。いつの間にか前に出て、声の主に『無言の圧力』を掛けている。すると流石に気まずくなってか、前後入れ替わって選手交代だ。弱い。やっぱりチンピラか。

 一向に態度を改めない石井中佐が、今度は正面を向き若頭に問う。


「交渉人は『あんた』なんだろう?」「テメェ若頭に何て言い草しやがる」「あぁ外野はちょっと黙っててくれんかねぇ」「外野だとぉ」「ほら言い辛くて、何も話してくれないみたいじゃないかぁ」

 石井中佐の表情が『交渉の邪魔だ』と言わんばかりの渋い顔へと変化。見れば若頭も同じか。今し方、両者共『笑顔』であったのに。

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