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海底パイプライン(百九十二)

 石井中佐と無線係が、だだっ広い吉原ビルの屋上に降機した。

 直ぐに無線機の調子を確認し『交渉開始』を一方的に伝えて切る。その後直ぐに、黒服の男が身だしなみを整えながら近付いて来た。


「お名前を伺っても」「帝国陸軍中佐の石井だ」

 所属は敢えて名乗らないが良かろう。コスプレにしたって、こうも『ビシッ』と軍服を決めているのだから、それで十分だ。


「お待ちしてました。こちらへどうぞ」「うむ」

 ほらね。チンピラの相手なぞ、高圧的に限る。後について歩き始めるが、上空から見えていた『パラソル』が如何せん遠い。

 噂には聞いていたが、吉原の一角を『丸ごとビルにした』だけあって、屋上もかなり広大だ。所々に機械があるが規則性は皆無で、見通しは良い。良く見れば所々に『黒服の男』が立っている。

 警備なのか、それとも『スナイパー』なのか知らないが、そんなの知ったこっちゃない。こちらとしては、人質となっている井学大尉と臼蔵少尉を早々に引き取って、早く任務に戻りたいだけ。


「すいませんが、もうちょっとペースを上げて歩いて頂いても」

 振り返った黒服の男が歩きながら急かす。しかし周りを眺めていた石井中佐の歩みは、一向に速くなる気配は無い。


「別に構わんだろう」「あのぉ、若頭がお待ちなのでぇ」

「あぁ? あそこまで行けば良いのだろぉ?」「はい。そうです」

「君だけ先に走って行っても、良いのだぞ? ほら」「……」

 石井中佐は既に早歩きである。これでもかなり気を遣って。

 ここで『走れ』と命令出来る程、相手は偉くなかろう。言葉通り、待たせて置けば良いのだ。待てないならこっちに来い。

 言葉に詰まってしまった黒服は、しきりに『パラソル』と『御一行様』を交互に見ている。手だけ『早く早く』と急かしているが、速くなるのは『パラソル』の下でパタパタ揺れる扇子だけ。

 中佐の後ろに控えし無線係に言っても無駄に思える。さっきから無言で無表情だし、ガッチリとした体を揺らして後に続くのみだ。

 偉そうに歩く中佐は勿論、割と体格の良い黒服の男だって『勝てる』とは思えない迫力だが、そんな男が『黙って付いて来ている』のだから軍隊は不思議である。いや、不思議を飛び越えて寧ろ怖い。

 おまけに全身迷彩服。足元は長靴で、ヘルメットまで被っている。当然のようにあご紐までピッチリ決まっているからにして。

 今は『無線係』を演じているが、一度『不測の事態』ともなればたちまち『護衛の任務』に付くのだろう。パッと見『銃器の類』は確認出来ないが、何処かにナイフの一本位は隠していても……。


「お連れしました」「お前ぇ。身体検査したのかぁ?」「アッ!」

 若頭の隣で扇子を仰いでいた男が一喝すると、黒服は振り返る。

『今やろうとした所だったのに……』「馬鹿者! アじゃねぇっ!」

 石井中佐の方を見たと思ったら後ろから叱責。再び振り返った。


「すいません」「武器は無い」「えっじゃぁ」「じゃぁじゃねぇ!」

 謝っている最中に、今度は石井中佐の『丸腰宣言』が耳に。

 また振り返ると、両手をしっかり上にしているものだから、黒服は身体検査を取り止めた。しかし後ろから、今度は怒号だ。

 慌ててポンポンと軽く叩く。こりゃぁ後でタップリ説教だな。


「何も無いそうです」「そうですって、テメェが確認すんだよっ!」

 またまた怒られてしまった。さらにビュンっと指まで差されて。

「腰にサーベルあんじゃねぇか!」「アッ」「だからアじゃねぇ!」

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