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海底パイプライン(百九十一)

 良く晴れた日のフライトは好きじゃない。雲一つ無くて、風も穏やかと来れば、『絶好の遊覧飛行日和』と見る輩もいることだろう。

 ヒョイと下界を見れば、ガラスドームの下にチラホラ見える人影。まるで蟻か豆粒のよう。どっちにしろ石井中佐の好みには非ずだ。


「あの『黒いビル』で宜しいのですかぁ?」「あぁ。寄せてくれ」

 ヘリがバンク角を変える。覗き見ていた地平が不思議と真横に来て、反対側からは南中した太陽光が注ぐ。何ちゅう角度だ。

 慌てて前を見たが、椅子に座ったまま『ベッドに横たわっている』ようではないか。不思議と『座った感覚』は残ったままに。


「あいつらですかねぇ? 交渉相手は。もう待ってますねぇ」

 目の前にヒュッと腕が出て来て、石井中佐は思わず行く手を見た。

 屋上に海を思わせるような『大きなパラソル』があって、ゴザまで敷いてある。きっと今頃は、冷たい飲み物でもやってる?

 その両サイドには、こっちは海には似つかない『黒服を着た男達』が多数、突っ立っている。あっ、パラソルから腕が見えた。

 何か上を見上げて後ろに指示すると、男の一人が走り出す。


「奴ら金を搾り取る気マンマンなんだろう」「やっぱり?」「あぁ」

「それじゃぁちょっと、脅しときますぅ?」「いや大丈夫だ」

 今回『どっちが悪いか』は、よく理解しているつもりだ。

 所がどうだろう。見ればパイロットは、笑いながら操縦桿を握り直しているではないか。慌てて止めに入らなければ、本当に無茶をし兼ねない。しかし名前が。えっと誰だっけ?

 聞いたかも知れないが、もうとっくに忘れてしまっていた。しかし御覧の通り、ご多聞に漏れず『陽気な奴』には違いないことだけは確か。あと操縦の腕前も。


「遠慮しなくて良いですよ?」「いやいや」「でも、ああいう連中に『弱気』を見せたら、もう絶対付け上がって来るんで」

 きっと頭の中では、既に『飛行コース』が出来上がっていたのだろう。パラソルを蹴散らした上に、カツラでも被っていれば飛ばす気か? クイッとケツを振り上げると、パラソルを正面に向ける。

「いや、本当に大丈夫だから。なっ! なっ!」

 しかし石井中佐が手を伸ばして来たので、判りやすく渋い顔に。


「ほらっ、あの合図は『ココへ着陸しろ』じゃないのかね?」

 今度は石井中佐がビルの屋上を指さしていた。一応階級は石井中佐の方が上なので、パイロットは指示に従う。

 見れば屋上を走って来た男が、足元にある『H』を示していた。

 見渡す限り広い屋上に、ヘリポートは一つだけ。ヘリも一機だけ。


「確かにアレですね。素直に降りますか」「あぁ是非そうしてくれ」

 ヘリが近付くと、男の上着が風で煽られ始める。それもあろうが、サングラスが飛ばされそうになったのか、顔を押さえて後ろ向きに。

 堪らず離れるように走って距離を取ると、もう一度振り返った。

 その頃にはもう、ヘリは『ストン』と着陸している。石井中佐は直ぐに降機にかかった。会話に使っていたヘッドホンを外すと、掛けっ放しのエンジン音が耳に入って来て凄く煩い。


「中佐殿ぉっ! 本当に帰投して、よろしいのですかぁっ!」「あぁ、無線係が居るから、大丈夫だぁ」「では、上空で、待機してましょうかぁっ!」「いやぁ、本当に大丈夫だぁっ! ご苦労様ぁっ!」

 ヘッドホンを使えと突っ込む間もなく、ヘリは早々に飛び立った。

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