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海底パイプライン(百八十七)

『乗れっ!』『はっ!』

 久し振りの磯の匂い。耳を澄ませば足音から幾重もの波の音。

 そんなロマンチックな想いなどする暇も無く、男臭い荷台に飛び乗った。『コンコン』と合図を送れば直ぐに出発。夜間ドライブの始まりだ。ライトも消して真っ直ぐに進めば、まるで満天の星空に突っ込むかのよう、と言いたい所だが残念。

 頭上にはパイプラインが走っているので、折角の夜空は見えない。


「こっちですね」「あぁ。内海の方な」「はい」

 トラックは進路をパイプライン沿いに取る。直ぐ先には巨艦が静かに我々の到着を待っているような。いや、それは絶対に違う。

 そう思っているのは、黒田を筆頭に『自称海兵隊』の奴らだけ。


「あれが翔鶴ですか。旧式とは言え、でかいですねぇ」

 幌の隙間から覗いた兵士の一人が呟く。興味を持ったのか、隣の兵士も覗き込もうとするが、上官に睨まれて止めた。

 これから鹵獲しようとしているのだ。嫌でも目にはするだろう。


『キキィッ』『行くぞっ』『コクリ』『コクリ』『コクリ』

 ブレーキ音がして車速がゼロになったのと同時だった。上官が頷いたのに呼応して、次々と荷台から降りて行く。

 うっかり呟いてしまった兵士も含め、飛び降りているのに足音一つ立てていないのだから、そこは良く訓練されているようだ。


『アルファーは向こう』『了解』『ベータはあっち』『了解』

 全てハンドサインだ。誰も居ないが静かに前進して行く。

 先ずは事前に訓練した通りの配置に着いて、給油中の翔鶴の様子を観察する。二人が柱を伝って頭上のパイプラインへと上がった。

 重装備なのに、猿かと見まごうほどの身のこなし。これまた訓練の賜物か。目的は監視とスナイパー役を兼ねてのことだろう。

 黒田は時計を見て、アルファーから順に『確保すべき場所』を見つめる。すると目が合って『配置に着いた』と返事あり。

 さぁ、今となっては空母としての役目は終わったものの、『標的艦』として蘇った『元空母』を、鹵獲しに行こうではないか。後は空からの支援のため、『ブラックホーク』が来るのを待つばかりだ。


『大佐、緊急事態です』『何ぃ?』

 背中を叩く合図。黒田は直ぐに振り返った。後ろを任せた真田少佐が間違えるはずがない。地上部隊隊長であるからにして。

『上からです』『監視係が?』

 指を向けた方に目を向けると、一人が双眼鏡を覗き、もう一人が『ハンドサイン』で情報をこちらに送って来ている。

 実に原始的だが、目視で確認出来る距離ならばこれが一番有用だ。


『防波堤沖を敵艦が航行中』『小さいの? 監視船?』『いいえ。もっとデカいのです』『デカいじゃ判らん。どれくらいだ』『コレ位です』『コレ位ですってお前、『翔鶴位』ってことか?』『はい』

 ハンドサインを交換している途中だが、黒田と真田少佐は顔を見合わせた。二人共表情が厳しい。


『おいおいおいおいっ。聞いてないぞぉ』『まさかぁ。私もですぅ』

 上官二人が焦ったのを目の当りにして『間に合った』と安堵。断じて嘘ではない。正確な情報を上官に上げて、指示を仰ぐのみだ。


『艦前方に砲身三本三段砲塔確認。大和かと』『大和だ』『ですね』

『ホーッ。ホッホォーッ』『全部隊に告ぐ。作戦中止ぃ。撤収っ!』

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