海底パイプライン(百八十三)
「ですよねぇ。先生の話を聞いて、俺も思いましたモン」
渋い顔をしながら辰也が言うもんだから、九十九は逆に怪しくなった。別に渚ちゃんの組が『軍からガッポリ』と行かなくても、自分の懐が痛む訳じゃない。いやまてよ? 一応『客』だしなぁ。
「辰坊ぉ、本当に側近じゃねぇんだろうなぁ?」「違いますよぉ」
「じゃぁ『出身地』は聞いたのか?」「いえぇ? 聞いてねぇっす」
「聞いとけよぉ。千葉の『何とか』ってだなぁ」「何とかってぇ?」
「田舎の方だよ。何とか群何とか町って」「それじゃ判らねぇっす」
「んな判れよ。俺だって知らねぇんだからさぁ。大体あっちの方だ」
「先生ぇ、千葉なら『チーバくんのどの辺』って言えば、通じるらしいっすよ?」「何だその『チーバくん』てのはぁ? 知らんがな」
「えぇえぇマジィ? 千葉県民じゃない俺だって知ってるのにぃ」
「俺だって千葉県民じゃないけど知らねぇよ」「じゃぁ事務所に『パズル』あるんで、今度持って来ますからって、チッキショォォッ!」
「何だぁ? どうした」「いやね先生ぇ。俺の事務所換気扇が突っ込んで来て、滅茶苦茶になっちまって、パズル飛び散ってしまいやがってですねぇ。聞いて下さいよぉ。あと少しだったんですよぉ?」
「いやいや要らねぇし。それこそ知らんがなぁ」「コノ辺だけ完成してたんですけどね。あと野田と銚子と館山」「全然じゃねぇか!」
一体『何の話』をしていたのかを、辰也は突然思い出す。
「でも、標準語だったんで『東京寄り』の方じゃねぇですかねぇ?」
「突然戻ったなぁ。じゃぁ『おいねぇよ』とか言ってなかったか?」
「いや判らんです。奴は『カバン持ち』とかなら言ってましたけど」
「それだよ辰坊っ!」「えっ?」「それ側近中の側近じゃねぇか!」
「そうなんですかぁ? 使いっパじゃなくて?」「ちげぇよ」
「だって『組長のバック』持ってるのなんて、したっぴですよぉ?」
「何でそうなるんだよ。若頭が持つんじゃねぇのか?」「いや最初はね? でも若頭も直ぐに『持ってろ』って渡すんで」「あぁ?」
「で直ぐに渡された人も『持ってろ』『持ってろ』『持ってろ』」
「あぁ良い良い。判った判った。でもなぁ? 軍隊はちげぇんだよ」
「そうなんですかぁ。知らなかったなぁ」「知っとけよ。全くぅ」
コレだから辰坊は、いつまで経っても『坊や』なのだ。力だけ強くても、ちょっとは頭が切れないと出世は望めない。
「じゃぁ戻ったら、出身地確認しときます」「そうしろ」「はい」
「少なくとも千葉県出身で、『聞いたコト無ぇ地名』だったら要注意だ」「それは千葉とか館山とか?」「そうだ。銚子とか成田とか」「酒々井とか白井とか?」「区別付くのかよ。勝浦とか鴨川もな」「やっちまった八街とか浦安とかw」「お前ふざけるなよ? 浦安はとっくの昔に東京に寝返っただろうがぁ」「アハハ。バレましたか。でも先生ぇ、あれは世間じゃぁ『寝返った』んじゃなくって、『島流しに遭った』って言われてますよ?」「そうかぁ? お陰で千葉県が『島になった』みたいなモンじゃねぇのか? まぁ良いから、兎に角『今出なかった奴』だったら、要注意だ」「へい」
九十九は首を捻り『辰坊の頭ん中ァどうなってんだ』と思う。何とか君パズルをやった後遺症なのかもしれない。
「良いか? もし『側近』だったら、『宦官ゲーム』とかしちゃ絶対ダメだからな?」「宦官? スタンガンなら持ってますけど?」
サッと取り出したのはマジモンのスタンガンだ。『カチッ』と押せば、立ち所に『ビリビリッ』と電気が走る。
「これ便利ですよね。麻酔より即効性あるんで、良く使うんですよ」
「良く使うな。要するに『ケジメ付けさせるようなコト』を、させんなってことだよ」「えっ? ダメでしたぁ?」「馬鹿野郎っ!」