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海底パイプライン(百八十二)

「冗談は止して下さいよぉ」「冗談じゃないってぇ」

 九十九は笑って誤魔化している。目は『聞くな』だ。辰也は別の確認をすることにして『おふざけ』を終らせる。

「そんなに冷たい奴なんですか?」「当然だ。函館に部下の医官を大勢引き連れて行ってだな、無事に帰って来たのは片手らしいぞ?」

 辰也は自分の指を伸ばしながら『片手』の人数を数え始めた。


「てことは『たった四人』ってことで」「五人だ。勝手に詰めるな」

 言われて辰也は、パッと右手と入れ替える。すると今度は五本だ。


「あぁ、数えたの右手だったと?」「まぁ、そうなんじゃないかな」

 九十九は余りの頭の悪さに呆れてしまっていた。確かに頭の良さについて九十九を基準としたとき、良い方と悪い方では、悪い方が圧倒的に多いだろう。人体を観察した経験としてもそう。

 例えば『人は何処まで生きていられるのか』とか。『社会的』とか『精神的』とかの基準は抜きとして。指とかなら、まだ楽勝だ。

 それで戦場での様子を詳しく聞けば、『本当に片手だけだった奴』も居たらしい。流石にそこまで失っては生きていられる訳もなく、遺族に引き渡せたのは指輪だけだったとも。

 ちなみそれが、別に『左手だった』という訳ではなく、単に『出撃前に外しておいただけ』なのであるが。


「じゃぁ『身代金の額を吊り上げる』ってのはぁ無理っすかねぇ?」

 若頭に大見得を切らなくて良かったと思う。これは若頭に恩を返すチャンスだが、そもそもが組のピンチでもある。

 交渉の行方次第では、若頭にもお出まし願いたいところだ。

 しかし情報源の九十九は、腕を組んで考えたままだ。


「まぁ、被害額だけなら払ってくれるのかなぁ? いやどうかなぁ」

 一瞬色良い返事が出掛かって、急にまた腕を組んでしまったではないか。被害額まで払って貰えないとは『+α』所の話ではない。


「えっ? 向うが突っ込んで来やがったのにですかぁ? 泣き寝入りしろってことすかっ! そんなの、幾ら先生でも許しませんぜ!」「いやいやいや。ちょっと待てぇい。別に税金を納めてないからって俺が払う訳じゃねぇし、お前らが『泣いて寝る』ようなタマじゃねぇってのは、判ってるって。なぁ?」「じゃぁ何でですかっ!」

 九十九は刺されそうな気配を感じて、苦笑いすら忘れていた。

 こういう輩には、ちゃんと『前提』を話してやらないとダメだ。


「法律でなぁ、戦闘中の被害は基本」『テヘペロ』「ごめんね。で終わりって決まってんだよ」「マァジすか! そんなの許さねぇ!」

 九十九は右拳を頭にコツンとやって星を出し、首を傾げて舌を出す。確かにそんな謝り方では、『戦争だから仕方ない』と思っていても、怒りが沸々と沸いて来るのは判る。

 せめて『菓子折の一つ』でも持って来いと言いたい。


「今回家は、完全に『被害者』なんですよぉ?」「判ってるって。だからさぁ、向こうが法律って奴を持ち出して来ないように、穏便に済ませた方が良いぞってこと」「えぇまぁ。そういうことならぁ」

 辰也も『穏便』が『プロレスの技』っていうのは何となく。本当の所はきっと、交渉が上手く行ったらそれが『穏便』なのだろう。


「あぁ、せめてヘリのパイロットが『部隊長の側近』だったらなぁ」

 辰也の顔が途端に渋い顔へ。何故なら『側近』の意味なら判るからだ。それに少なくとも『カバン持ち』が、『側近ではない』のも。

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