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海底パイプライン(百八十一)

「あぁすんげぇ変わって帰って来てさぁ、もう皆で驚いたもんだよ」

「そんなに変わったんですかぁ?」「変わった変わった。特に性格」

 辰也も九十九を疑っている訳ではない。医者の癖してたまに『変な嘘』を付くこともあるが、概ね良心的な医療アドバイスが貰える。

 それよりも、今回は『交渉窓口』として『どんな奴か』を知っておく必要があるだろう。何しろこれから『身代金』を奪い取ろうとしているのだ。汲み易い方が良いに決まっている。


「先ずね、何でも人を疑うようになった」「それって普通じゃ?」

 得意気に指を縦に振る九十九に、辰也は苦笑いで口を挟む。

 しかし九十九は『辰也の普通』とは相容れないと首を横に振る。


「いや普通じゃねぇ。前はちょっと誤魔化して報告したって、『ほうほう。ハイ。ご苦労様ぁ。次ぃ』って感じで楽勝だったんよ」

「数字を誤魔化しちゃダメでしょお。正確に報告しないとぉ」

 辰也にしてみても『九十九の普通』とは相容れないようだ。

 しかし掌を上にして突っ込まれても、九十九にしてみれば『過去の出来事』に過ぎない。笑って言い返す。


「ちょっと位良いんだよ。んな大体が『数字にし辛い報告』なんだからさぁ」「そんなの、どんな報告なんですかぁ?」「ナイショ」

 辰也の疑問は晴れない。しかしどうも九十九の『ナイショ』にはこれ以上突っ込まない方が。それより『話しの続き』の方が有用だ。


「でなぁ? 帰って来てからは報告しても、細けぇことをネチネチ聞いて来るんだよ。そんなに知りたきゃさぁ、自分で『診に行け』って言うんだ」「ほぉほぉ」「テメェは医者なんだからさぁ」

 声だけでは辰也に『診る』と『見る』の違いは判らなかったようだ。しかしボソッと付け足された『単語』には、違和感を感じる。

 多分九十九は『テメェ()』と言いたかったのだろう。知らんけど。


「後なぁ、金にすんげぇ細かくなった」「それは良いことでは?」

「良いことなんかあるかっ! 今までは予算をバンバン使ってたのによぉ、『高すぎる』だの『多過ぎる』だの、その上『在庫と合わねぇ』とかまで言うようになってよぉ。やり辛ぇのなんのって」

 辰也は流石に『それは当たり前だ』と突っ込もうとして止めた。

 次に辰也が対峙するであろう『石井部隊長』は、きっと九十九にしてみれば『731部隊の想い出』の中で『鬼上司』なのだ。

 当時はとても嫌だったに違いない。今も嫌そうだ。しかし『笑って話せる程度』にまでは、苦い想いが希釈されたのかもしれないが。


「そんじゃぁ、今でも相手すんのは苦労しますかねぇ」「するな。間違いねぇよ」「ですかねぇ?」「あぁ。あの性格は一生直んねぇ」「年取って『丸くなる』なんてことは?」「はぁ?」「いや俺は、幾つかなんて、全然知らないっすけど」「んな俺より、全然若いよ」

 辰也は今度も突っ込めない。世の中の人間、大抵は九十九より若いに決まっている。九十九は完全に『年金暮らし』をしている年齢だ。幾つかは知らないが、まぁ確実に『昭和二桁生まれ』だろう。


「ヘリの乗員を人質にして、身代金の交渉をしようとしてるんすけど、難航すると思いますぅ?」「無理だな。バサッと切られるな」

「えぇ? 部下ですよぉ?」「奴にしてみれば部下だって『丸太』みたいなモンだろうがぁ!」「はぁ? はぁ。太くて丸い感じの?」

 辰也は意味が判らず声が裏返り、そして元に戻った。九十九は辰也に気が付かれないように『ハッ』となる。直ぐに誤魔化す。

「あぁそうだよ。ぶっとくて先がまぁるい感じのなぁ!」「先生ぇ」

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