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海底パイプライン(百七十二)

「へぇえぇ。じゃぁ、奴らが何者なのか、先生に聞いて来ますか」

 辰也は右を二度指してから、今度は上を指さした。若頭は頷く。

 脱走を試みた遊女を閉じ込める『拷問部屋』に、軍人二人が放り込まれているのだろう。九十九先生が居る病院は、真上じゃなくてもっと左上の方だが。まぁ、それも良かろう。辰也は動き出す。


「その前に辰っ! 誰に連絡すれば良いのか位、聞いたんだよな?」

 若頭の声が扉に手を掛けた辰也の耳に辛うじて届いたようだ。

「えっ?」「えじゃないよ。人質交渉の窓口は誰だって聞いてんだ」

 しかし、どうも『辰』しか聞いて無かったらしく、振り返った顔は『何でしょう?』である。辰也は自分を指さした。


「俺がやるんですか?」「何をだ」「人質交渉の窓口ですよ」

 やっぱり聞いてない。若頭は頭が痛くなって来た。これはパチンとおでこを叩いただけでは、どうにも治りそうにない。


「辰ぅ。お前、出来んのかぁ?」「若頭がやれって言えばぁ……」

 辰也だって、一般人を脅して金を巻き上げるのならお安い御用だ。それ位若頭に言われる前に、何件だってやって見せる。

 しかし相手が軍人となれば話は別。闇討ちなら兎も角、正面きっての交渉となれば腕力は無意味。何しろ陸軍の奴らは、戦車だのバズーカ砲だの、こちらには無い武器を幾らでも出して来るのだから。


「無理無理。こっちじゃなくてだなぁ、向こう側だよっ!」

 若頭が勢い良く右を差したので、辰也はつられてそっちを見た。

 しかし若頭と違って、辰也にはその意味が判らないようだ。


「金剛組の奴らに任せるんですか?」「はぁ? 何で金剛の奴らが関係するんだっ! ぶつかったのは家の組だろっ!」「えぇ……」

 若頭は反省しきりだ。辰也に地図を渡しても、全くの無意味だったのを思い出す。金剛組と抗争の折『隠し武器庫の地図』を渡して襲撃させたのだが、地図を逆さに見て、偶然『山田組事務所』に飛び込んでしまったのだ。あのときは大事にならないで良かった。


「で、誰なんだ? 向うの窓口は?」「それなら確か、報告書の方に書きましたけど。誰でしたっけ?」「お前なぁ。これから『こいつ知ってますか?』って、聞きに行くんじゃねぇのかぁ?」

 その場で思い出している辰也に呆れた若頭が、報告書を急いで捲っている。最後まで捲ったが全部被害状況で終わり。

 何処だよと思い、先頭に戻ったらそこに書いてあったではないか。若頭も見逃していたのだが、そこはおくびにも出さない。


「おい辰っ」「へい」「石井中佐だってよ」「あざぁっす!」

「誰か『こいつ』知っている奴いるか?」「いいえ」「いいえ」

 報告書の記載ヶ所を指で押さえながら、お付きの者に見せた。しかし誰も知っている者は居ないようだ。少なからず士官も吉原を訪れてはいるが、その客の一人としても居ないのだろう。


「ちょっと誰か暇な奴いるか? 辰と一緒に行ってやれ」「へい」

 お付きの者がお辞儀をしたものの、誰もが『今忙しい』を顔に出して渋い顔をしている。結局辰也を睨み付けて、『お前の部下を連れて行け』と顔で判らせた。辰也は直ぐに頷く。


「あのぉ。四平を連れて行きます」「あの『ゲーム小僧』かぁ?」

「えぇ。あいつ凄いんですよ? 『三度の飯よりゲームだ』って」

 ニッコリ笑って行ってしまったが、もう不安しか残っていない。

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