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海底パイプライン(百六十九)

「入れちゃって良いんですか?」「良いんだよっ! 良いのっ!」

 若頭が断言するものだから、辰也は言い返せない。

 不思議なのは、いつもの若頭なら『正確な報告をしろ』と言うのに。これではまるで『嘘を推奨する』かのような言い草ではないか。

 若頭は放り投げた報告書を左手で持ち上げると、右手の中指で『パチンパチン』と弾く。穴が開かない程度の力で。


「この被害をだなぁ、誰に請求するんだぁ?」「保険会社ですか?」

「んな訳無いだろっ! この街は国税庁だって知らねぇんだぞぉ?」

 いやそれはどうだろう。確かに入り口は厳重に管理されていて、そう簡単には入れない。しかし『マルサ』だろうが『一般職員』だろうが、国税庁にだって『悪いこと大好き』な奴らは居るものだ。


「えっ? じゃぁ火災保険には?」「入ってないない」「ありゃ」

 若頭は右手を左右に振りながら、さも当たり前のように答える。

 木造で閉鎖空間に『これだけの街』を造っておきながら、ただの一件も火災保険に入っていないとは。もし保険会社が嗅ぎ付けたなら、『ブルーオーシャン』と思って、殺到するに違いない。


「じゃぁ、報告書に『嘘の数字』書いて、どうするんですかぁ?」

「辰っ! 嘘じゃねぇよ。何てったって全損なんだからなぁ?」

 辰也は急いで頷いた。若頭が言うことは全て正しい。まぁ正確には『全損一棟』と、対面の『半壊一棟』なのだが。


「すんません。じゃぁ掛け布団も畳も、全損ってことでぇ」

 多分半壊の方は、被害を備品の半分で計上しておけば良いだろう。

 辰也の心を察してか若頭が大きく頷く。辰也ももう一度頷いた。


「あぁ。良いか? 映像にあったが、突っ込んだ奴が居るだろぉ」

 若頭はモニターの方を指さした。今も小さな画面に区切られた、『吉原各所の映像』が映し出されている。ほら今、現場が映った。

 すると若頭付の組員がその場で映像を止め、大写しにしたではないか。しかし映像が広角過ぎて、拡大しても良く判らない。


「はい。嘘かもしれませんけど、一応『陸軍』を名乗ってました」

 辰也は丸焼けになったヘリを見たものの、それは既に原形を留めておらず、何てヘリか判らない。軍事オタクでも無いし。周りも。


「おう。だったら、じゃぁ、軍に払って貰おうじゃねぇかっ!」

 若頭は映像を見て『軍のヘリ』と判ったのだろうか。何だかもう『犯人は軍』と結論付けているように思える。


「一応、何て機種なのか聞いて置け」「あっ、その手があった」

 辰也がポンと手と叩く。本当に思い付いていなかったようだ。

「お前なぁ。ちっとは頭を使えぇ?」「すいやせん」

 急ぎ頭を掻きながら腰を折る。まだ尋問前だし、良しとしよう。


「まぁ良い。ちなみに何処所属の奴らだったんだ? ヘリの奴らは」

 すると辰也が今度は体を真横に傾けたではないか。加えて苦笑い。

「えっとぉ、その報告書に書いたら、忘れちまいましてぇ」

「しょうがねぇなぁ辰よぉ。お前は直ぐ忘れちまうからなぁ」

「いやいつもとは違う、聞き慣れない部隊だったもんでぇ」

 胡麻を擦りながら言い訳。取り敢えず報告書を見て欲しい。一歩前に出た辰也が右手を伸ばし、『確かこの辺にぃ』と指し示す。


「えっ、七三一部隊、だとぉ? 辰っ! おまっ」「ご存じで?」

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