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海底パイプライン(百六十八)

 若頭が渋い顔になった。頷いて『しゃーねぇーな』だ。

 しかし手元の報告書を見て、更に口をへの字にする。死亡者ゼロは良いとして、被害の状況が良く判らないのだ。辰也に問う。


「で、何だよ。この敷布団が三十五枚ってのは? えぇえぇ?」

 数字が細かい。若頭は角度の付いた金縁眼鏡を取り出した。

 それを掛けずに右手で持ったまま前後に動かす。まるで『虫眼鏡』のように使っている。最近度が合わなくなって来たのだ。レンズを入れ替えたい所だが、面倒なのでまだ眼鏡屋に行っていない。

 眼鏡を持つ手で報告書を『タンタンッ』と叩いた後は、それを辰也に見せた。辰也は一歩前へ。更に首を伸ばして覗き込む。


「いえあのぉ。三十五枚焼けちまったんで、そう書いたんですけど」

 一瞬『数字を間違えたか』と思ったが、幾ら数字に弱い若頭だって、流石に二桁の数字は読み間違えないだろうと思い直す。

 するといきなり、報告書で『パチンッ』と叩かれてしまったではないか。いや、正確には『空振り』なのだが。辰也は痛そうにする。


「馬鹿たれぇっ!」「本当ですって。ちゃんと数えました」

 辰也だって数字に強い訳ではないが、流石に三十五までだったら数えられる。両手両足で足りない場合は『正の字』作戦だ。


「辰ぅ。お前『一棟丸焼け』って報告で、何で三十五枚なんだぁ?」

 辰也は答えに困る。『被害を纏めろ』と言われるに決まっているので、焼けた枚数を正直に数えただけなのだから。

 若頭は首を傾げる辰也にもう一度問う。今度は違う切り口で。


「じゃぁ、定員は何名だ?」「五十三名です」「予備の布団は?」

「えーっと確かクリーニング中のも入れるとぉ。七十五枚です」

 流石は現場責任者。担当範囲の情報は、備品の数も含めてしっかりと頭に入っているようだ。当然女郎の数も。


「じゃぁ報告は七十五枚だろうぉ」「えっ、それだと全損ですけど」

 当たり前のことを言うものだから、若頭の顔がもう一度歪む。

「全損だろうがっ!」「えぇ?」「焼けなくても水浸しなんだろ?」

 もう一度報告書を『タンタン』とやって、首を傾げた。


「はい。なもんでぇ『直ぐ裏に干すように』って、言っときました」

 若頭は現場を見ていない。だから知らないのだろう。辰也は丁寧に『干した方』を指さし、自分もそっちを見た。

 屋根の上に広げて乾かしている現場を見せようと。しかしあぁ残念。ここからは見えない所に干したんだった。辰也はニッコリ笑う。


「ちょっと半乾きかもしれやせんがぁ、まぁ今夜には使えるかと」

「馬鹿たれっ! 使うんじゃねぇっ!」「えっ!」「お前なぁ……」

 若頭が思いの外大きな声を出したものだから、辰也も思わず『疑問譜』を挟んでしまった。呆れた若頭はソファーにそっくり返り、報告書をソファーの上に放り投げる。

 その上頭痛がするのか、眼鏡をしまって目頭を押さえる始末だ。


「火事で濡れた布団なんて、使えねぇだろ」「そうなんですか?」

「凄い匂いが付いてるからな?」「マジすか! 直ぐ確認します」

 若頭は『辰也がやらかしたボヤ』のことを思い出していた。直ぐに理解する。辰也は病院に担ぎ込まれて、後始末をしていないのだ。


「あっ、でもクリーニング中のは?」「被害に入れとけっ!」

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