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海底パイプライン(百六十七)

 結局、消防隊が署に戻ったのは、消火してから四時間後であった。

 前言通り被害状況を確認するのは勿論だが、焼け跡から『こんがり焼けた見たくない何か』を探していたのもある。寧ろそっちの方に時間を費やされていた。その間、四平は不満タラタラである。

 幸いだったのは、捜索した結果『何か』が見つからなかったことであろうか。もし見つかっても『どちら様?』と聞く訳にも行かないし、家族に何て説明すれば良いのかも迷う。

『お宅の旦那さん、吉原でファイヤーし過ぎてしまいましてぇ』

 とか説明する役を、ジャンケンで決めねばならないだろう。


「馬鹿野郎っ! そんなのジャンケンで決めるんじゃねぇっ!」

 辰也も冗談で言ったのに、若頭には全然通じなかった。しかし空中で『殴った振り』なのを良いことに、辰也は首を竦めただけだ。


「やっぱり」「当たり前だ! お前が行くに決まってるだろう!」

 今度は蹴り。しかし被害はテーブルの方。天板がガラスで出来た奴だが、壊れる程ではなくて、辰也の方にちょっとズレただけ。

 辰也は本当の蹴りが飛んでくる前に、頭を深々と下げた。

 若頭は椅子にそっくり返って、報告する辰也を睨み付ける。


「へい。すいやせん」「責任者はお前なんだぞ! 判ってんのか!」

 今度は手も足も振りながらであるが、どっかりと座っているからか、テーブルに足が届かない。両方とも空振りである。

 顔を上げた辰也は、その様子が可笑しいのだが、笑ったら殺されると思っている。反省をした振りのままの顔を保つ。


「判ってます」「たく。この野郎ぉ。女ばっかり抱いてるからだ!」

 若頭も『普段の辰也』に呆れているのだろう。この機会に説教でもするつもりか? 報告の内容より『遅くなった』のを咎めているのだが、辰也はその真意が判らない。何せ『不正確なことを報告』すれば、直ぐどやされるに決まっているからだ。


「これから『抱こうとしていた』だけでしてぇ。まだ抱いてなぃぃ」

「辰っ!」「へい。すいません」「事務所で女を抱くなって!」

 辰也の部下が、辰也のことを『辰兄』と呼ぶのは、若頭が『辰』と呼んでいるからに他ならない。

 一部は辰也の名前が『辰』だと思っている輩もいる程だ。


『あと一文字なんだから略すなよぉ』

 とは、誰も思っていない。それは辰也本人も含めて。

 組には他にも『竜雄』とか『辰巳』とか『たつ』で始まる名前の組員も居るのだが、若頭が『たつ』と呼ぶのは辰也だけだし、辰也も真っ先に返事をする。可愛がられていると思うことにしよう。

 辰也は苦笑いで両手をスリスリし始めた。


「あれは面接と言うか、調査の一環でしてぇ」「何のっ!」

 いつも通り『言訳』を始めた辰也へ、若頭は直ぐに突っ込む。

 正面から。おっといけない。若頭と辰也が『そういう関係ではない』ことだけは、先に伝えておく。ただの『言葉の綾』だ。


「いやぁ、処女だと色々面倒なもんでぇ。先にチェックをね?」

 確かに花街で『処女』は評判が悪い。大抵は『ズッコンバッコン』しに来ている訳なので、処女だと『うわマジか』となる客が殆どだ。

 若頭も思わず『ちっ』と吐いて、眉を顰めたではないか。


「でも、処女好きの先生達にぃ」「却下食らいましてぇ」「あぁあ」

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