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海底パイプライン(百六十五)

 炎が見えない。しかし火が消えた訳ではないことは明白だ。

 何せ近付くだけで熱を感じる。竜司は濡れた布団で身を守りながら火元に被せ始めた。四平も嫌そうな顔で後に続く。


「あちっ、冷てぇっ」「フッ。どっちなんだよ」「両方ですぅ」

 二人の頭上からは容赦なく水が降り注いでいた。竜司の意図を辰也も理解して、敷かれた布団目掛けて水を掛けていたからだ。

 直接当てると布団がめくれ上がってしまうので、山なりにしたり、柱に当てて反射させたりして工夫を凝らす器用さだ。暴れる筒先を巧みにコントロールするのは『至難の業』であろうに、それをいとも簡単にやってのけるとは。辰也と目が合えば、水まで掛けてくれるサービスも。これはもう、是非消防隊にスカウトしなければ。


「ドンドン掛けろっ!」「ちめてっ。本当に燃えないっすよね?」

 二人は散らばっている布団を引っ張り出し、次々と火元に掛けて行く。隙間が出来ないように、ピッタリと重ねながら。

 ついでに濡れて重たくなった畳も蹴っ飛ばして、『支え』にしてみたりして。畳だって『可燃物』には違いないが、これだけ水に濡れていれば『燃え出すには相当時間が掛かるだろう』との判断だ。

 それに水に濡れてしまった畳なんて、もうどうにもならないし。


『ガタンッ!』「うおっ、あぶねぇっ!」「ひぃぃっ!」

 いきなり火元が下に移動した。積み重ねた物が、木が裂ける大きな音と共に一メートル程。二人の足元も、ガクンと傾く。


『ボォォォッ!』『シャァァァッ!』「あわわわっ」「落ち着け!」

 下から燃え尽きて、ヘリの重さに耐え切れなくなったのだろう。

 上に積み重ねた物が落ちる勢いで、一気に煙と炎が立ち昇った。

 四平は予想外の出来事に、腰を抜かして驚くばかりだ。竜司になだめられても、まだ足をバタバタさせているではないか。


「うへえっ、何も見えねぇ」「口塞いでおけっ!」

 しかし四平を驚かせた黒い煙も、一瞬で白い水蒸気に変っていた。

 辰也が煙の発生源に向けて、ホースの水をぶち込んだからだ。

 するとやがて、煙の色が真っ黒から、少しは白っぽく変わって来たではないか。布団や畳からも白い煙が。いや、熱せられたが故の湯気か。しかし辰也は、そこにもホースの水を絶やさない。


「よいしょっとぉ」「あぁ臭かったぁ。おっ、何か消えそうですね」

 屋根の二人は少しばかり火元から離れて、様子を見ることにした。

 ヘリの反対側にも消防隊員が出張って来ていて、濡れた布団を火元に掛けている。竜司がやっているのを真似たのだろう。

 一番筒は辰也程水のコントロールは上手くないが、それでも火元に向けて放水しているのだから、布団が全く濡れない訳ではない。

 上からは相変わらず、スプリンクラーの水だって降り注いでいる。


「煙、上の方に大分溜まってますねぇ」「まぁ、何とかなるだろ」

 四平が天井を指さした。火事で発生した『黒い煙』が、天井付近で雷雲の如く留まっている。すると今度は、竜司の方を見て問う。

「全員『酸欠』なんてことにはなりませんよね?」「大丈夫だろ?」

 換気扇が壊れたとは言え、一番近くの換気口からだって幾らかは排気されているか、若しくは新鮮な空気が入って来ている。はず。


「まぁた簡単に『大丈夫』とか言っちゃってぇ。本当ですかぁ?」

「じゃぁ、だったら俺に聞くなよっ!」「えぇ。だってぇ」

「お前なぁ? ここで『ダメ』ってたってぇ、しょうがねぇべぇ?」

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