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海底パイプライン(百六十四)

「よっしゃぁっ! お前ら引っ張れぇぇっ! せーのっ!」「おぉ」

 音頭取りの気合は十分だが、引っ張る側の士気は低い。

 体温と同じか。容赦なく水を引っ掛けられて、全身がビショビショなのだから。辰兄が『もう一度掛けようか?』の素振りを見せるが、それでも状況に変化無し。『パキッ』も『バキッ』もない。


「一人来いっ! お前っ!」「俺ぇ?」「早くっ!」「はいっ!」

 ロープを掴んでいた男が自分を指さしながら走って来る。

 理由は多分『辰兄と目が合ったから』だろう。何となく『嫌な予感』がするも、断ることなんて出来る訳も無し。迷惑この上ない。


「ちょっと持ってろ。こうっ!」「えっ」「頼んだぞ」「えっ?」

 辰兄は筒先から片手を離し、呼び寄せた男の腕を掴む。そして無理矢理に持たせた。一応『お願い』をした体になっているが、これは『命令』と同義。しかも確実に『戻って来るまで』なのだ。


『バシュッゥゥッ!』「うわうわうわうわっ!」「おおおおおっ!」

 男が両手で握った瞬間、さっきまで大人しくしていた筒先が暴れ出した。まるで『辰兄からやっと解放されたぜ』と思わせるような。


「やばいやばいやばい!」「押さえろっ! ホースを踏むなっ!」

 慌てて全身を使って抑えに掛かる。消防隊員も辰兄が居なくなってから『こんなに力が要るのか』を実感している所だ。

 しかし力は要る分、気楽な相手にスイッチしたことで、やっと『イニシアティブ』を執り始めたではないか。良いことだ。

 一方筒先を任せた辰也は、ロープの方に並んでいた。一番後ろに。


「お前ら、もっと力入れろっ! 行くぞっ! おぉえすっ!」

「オーエス!」「おぉえすっ!」「オーエスッ!」「おぉえすっ!」

 由来は誰も知らないが、何故か誰もが知っている謎の掛け声『オーエス』。その昔、誰かが言い始めたにしては日本語らしくない。

 かと言って『オペレーティングシステム』の略、ではないことだけは確か。何だそりゃ。多分『謎の掛け声・オーエス』の方が古い。


『バキッ』「良いぞっ!」「オーエスッ!」『バキバキバキッ!』

 誰も気にしてはいなかった。ロープを引っ掛けた屋根が、梁から引っぺがされて外れる音が響く。辰也の誉め言葉に思わず力が入る。


「オーエスッ!」『バキバキッィィィィッ!』「一気に引けぇっ!」

 一同『手応え』を感じていたのだろう。息を合わせて引っ張ると、遂に屋根が壊れて動き出す。跳ね上がった勢いで、屋根瓦が滑り出した。すると軽くなったからか、更に手応えが増す。


「うりゃぁぁぁっ!」「うおぉおぉおぉっ!」『ガランガランッ!』

 けたたましい音がした瞬間、火元に屋根が覆い被さる。黒い煙が勢いで『モンッ』と舞い上がって、一瞬奥の壁が見えた。

 同時に上から水が掛けられる。湿った屋根が覆い被さったのだ。火災の勢いで乾く前に、何とかしたい所だ。

 屋根の上からジッと見ていた竜司は、露わになった三階の床面を見て、ピンと来ていた。直ぐに四平に声を掛ける。


「おい、布団とか畳を投げ込めっ!」「ええっ? 燃えませぇん?」

 怪訝な表情で反対するのも無理は無い。投げ込むには下に降りて、更には『火元に近付かなければならない』からだ。嫌過ぎる。

「大丈夫だ。水で濡れてるから直ぐには燃えん」「本当ですかぁ?」

「やってみないと判んねぇだろっ!」「今大丈夫って言ったのにぃ」

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