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海底パイプライン(百六十)

「うっ、若頭がぁ?」「えぇ。一応『見掛けたら声掛けときます』って答えといたので、まだ見掛けてないことにすれば……」

 目の前に居て言うのもなんだが、辰也も『その線』で何とかしたいと思っているのは明白だ。口をモゴモゴさせながら、辰也は筒先を掴んで離さない。もう顔は火元の方に向けているし。

 竜司も辰兄なら筒先を持つことに何ら心配は無いのだが、若頭の指示をどう扱うべきかについては迷う。

 辰兄は若頭が苦手だし、竜司もそれを判っているからだ。


「もう知ってんのか?」「そりゃぁ、ねぇ」「だよなぁ」

 竜司も振り返らずに、目だけでグルリと周りを見渡した。

 一見『江戸時代を演出した街並み』となっているが、裏では現代の技術も目立たぬように織り込まれている。

 その中の設備として一番多いのは、やはり『監視カメラ』だ。いや『消火栓』とか『非常口サイン』じゃないのかよと。


「でも、『俺のせいじゃない』ってのは判ってくれているよなぁ?」

 監視カメラは当然『何かあった場合』を映像として残しておくための装置である。それが随所に仕掛けられている訳だから、組の幹部がそれを見て、決して『寝たばこが原因』とは思わないはずだ。

 辰也が心配しているのはそこ。二度目の失敗は許されない。


「それは判っていると思いますけどぉ……」「じゃ何だぁ?」

 人命救助とは言え、若頭の許可を得て突入して来た竜司は知っている。『録画した映像』を見せられたのだから。

「えーっとですねぇ」「何だよ。ハッキリ言えよ」

 口をモゴモゴさせて迷いがある。辰也は余計に心配になって来た。

 自分の悪事が上にバレないよう、監視カメラの一部映像を『故障』と偽り上に報告していたからだ。

 そんなことをしているのは、別に自分だけではない。


「いやぁ、決定的な瞬間を見せられましてねぇ?」「まぢぃ?」

 それは遠くの壁の上から撮影された広角映像で、事故現場は小さく映っていた。そんな小さな映像であるにも関わらず、明らかに『換気扇』と判る物体が飛んで来て、突き刺さった瞬間が確認出来るのだ。若頭の指と、画面を舐めるように見ていた後頭部のお陰で、『火元の方』は良く判らなかったが。近すぎ。もうちょっと退いて。


「『ここって、辰の事務所じゃねぇか?』って心配されてましてぇ」

「あぁ何だ。あっぶねぇ」「やっぱり危なかったんですかぁ?」

 どうやら『監視カメラの件』ではないらしい。ホッとして思わず声を漏らしてしまった。一方の竜司は、純粋に『換気扇をかすめた』と思っている。思わず聞くと辰也も二度頷いたではないか。


「ここだけの話だぞぉ? 机に女を座らせている最中になぁ?」

 事務所に『未会計商品の持ち込み』は禁止されている。辰也は女を歩かせて連れ込んだからセーフと言いたいのか? だとしても、後の二人は辰也の『持ち込み』なのだから完全にアウトだ。


「ズボーンッ! て来たんすかぁ?」「そうだよぉ」「あっちゃぁ」

 あと一メートルずれていたら、辰也の命は無かっただろう。しかしお気に入りのワインが、高い保存ケースごと砕け散ってしまった。

「これから俺が『ズボーン』ってやる所だったのによぉ。滅茶苦茶にしやがってさぁ」「最悪っすねぇ。それって映像残ってますぅ?」

 被害総額を計算していた辰也だったが、思わず言葉に詰まる。

「んんっ? どうかなぁ? 衝撃で壊れちまったかも、しれんなぁ」

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