表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1343/1528

海底パイプライン(百五十六)

 どうやらここは『現代』らしい。井学大尉はまだ疑いながらも、そう結論付けざるを得なかった。

 良く見れば、周りを取り囲む男達の着物。その柄が『二、三種類しか無い』なんてことが、あり得るだろうか。

 帯に至っては全員紺で、雪駄だって全員同じ。元号はどうであれ、仮にも『江戸時代』ならそれは無い。一人として同じには成らぬ。

 一瞬『流行』とも考えられたが直ぐに否定した。これらは『レンタル品』で、ここは良く出来た『テーマパーク』なのだと。


「作戦とは言え、済まなかったな。軍に連絡してくれ……」

 両拳を降ろしてファイティングポーズを解く。振り返ってヘリが突っ込んだ現場を眺めれば、未だ炎上中である。

「判ってくれれば良いんだ。しかしなぁ……」

 源次郎も拳を降ろし、優しい声で歩み寄る。周りの観客は『何だ。やらねぇのかよ』と白けてしまった。

「部隊長の石井少佐に連絡して貰えれば……」『ぐぅ!』

 井学大尉が連絡先を口にして、振り返った瞬間だ。遠慮なくグーパンを叩き込むと、井学大尉は鈍い音を立てて吹き飛んで行った。


「一発は殴らせてもらうぜぇ」

 観客が支えるかと思いきや、避ける間もなく足元に転がっただけ。正に『グゥの音も出ない』だ。これは死んだか?

 そう思った観客の一人が腰を屈め、顔を覗き込んで見るが息はある。しかし『白目』になっていて、最早立ち上がりそうにない。

 何だと思って立ち上がり、肩を軽く蹴って見たものの無反応。

 どうやら一発で決着してしまった。つまらん。実につまらん。


「おい、そっちのも連れて来いっ!」「俺?」「そうだよっ!」

 源次郎が客に指示している。先に転がった臼蔵少尉を指さしていた指を客の方に向け、笑顔でもう一度臼蔵少尉を指さした。

「おい」「あぁ。軍人さん、起こすよぉ」「意外と弱いんだねぇ」

 すると巻き添えになった客が仲間の客に声を掛け、二人で臼蔵少尉を抱き起し、両肩を支えて歩き始める。

「うぅ」「どっから来たんだい?」「ちゃんと弁償してくれよ?」

 話し掛けても臼蔵少尉は呻き声を上げるだけ。頷いているが、それは『詫び』なのか、それとも『錆び』なのか判別は不可能だ。


「ほらっ! 立てよっ!」『グフッ』「オラッ!」「うっ!」

 こっちは一人で起こすつもりか。しかし手荒い。いや、足荒い。

 腹を蹴り、目覚めた所でもう一発。三発目は『判った』と合図すると源次郎は寸止めにする優しさを示す。

 すると井学大尉は頷き、自ら立ち上がる。頭を振っているので相当効いたようだ。後頭部を押さえているのは、受け身を取れずに転がったからだろうか。しかし源次郎に容赦は無い。


「ほら早く立てぇっ! 辰兄ぃを待たせんじゃねぇっ!」「うっ」

 片肘を付いた所で更に蹴り。丸めた足の指先が腹に食い込む。

 ガクッと手を付いた所で源次郎は溜息だ。井学大尉の後襟をグッと掴むと、強引に引っ張り上げて立たせる。それで肩でも貸してやるのかと思いきや、さにあらず。

 子猫を掴まえたようにして、そのまま歩き始める。きっと逃げ出した女郎なんかも、そうやって来るのだろう。手慣れた感じだ。


「ほら歩けぇっ!」「……」「こっち見んなっ!」

 チラリと後ろを見た井学大尉の頭をピシャリ。すっかり大人しくなった白服二人は、ちょんまげ達が集う『墜落現場』へと逆戻りだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ