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海底パイプライン(百五十四)

 二人が睨み合った周囲を、人垣がグルっと取り囲む。

 片方は軍人。白い服を着た若い将校は、特別強そうにも見える。

 対するはちょんまげ。大体が『元とび職』なので、腕っぷしには自信がある。ホラ腕まくり。なら喧嘩だって手慣れたもののはず。

 将校の蹴りを『ノールック』で弾いて魅せたのは、伊達じゃない。


『どっちに賭けるぅ?』『そりゃぁちょんまげだろぉ』

 取り囲んだ男達が勝手に『賭け』を始めたが、仕切る奴はいない。

 もし他に『ちょんまげ』が居たら、そいつが大声で纏めるだろうに。しかし今は『人命救助』の真っ只中だ。

『やっぱり軍人の方が強いんじゃね? 戦闘訓練してんだろうし』

『いやぁ、でもそこにさぁ、一人転がってんだけど』『ありゃぁ』

 将校の視線が源次郎からチラチラ離れるのは、『ラリアットをまともに食らって倒れた仲間』を、心配してのことだろう。

 不意打ちとは言え、源次郎の予想通り『受け身』は取っていた故、致命傷とはなっていなさそう。しかし『全身が痛い』ことには変わりはない。未だ地面で横になり『芋虫のマネ』をし続けている。


『あのちょんまげってさぁ、元火消の『源次郎』じゃねぇ?』

 ちょっと大きな声が源次郎の耳に入った。思わず、チラっとだがそっちの方を見る。何故なら前回の『人気投票』の結果、僅か一票差で『クビ』になってしまったからだ。

 人気者からの転落は、本人にしてみれば多少は気にする所。


『ブンッ!』「おっとぉ。相変わらずダマなのかよ」『ブンッ!』

 源次郎が目を逸らした瞬間を逃さず、将校の蹴りが飛んで来た。

 死角から。防がれれば今度はストレートパンチ。

 源次郎もさっきみたいに、蹴りを完全に受け流すことは出来なかったが、それでも余裕の表情は変わらない。パンチは上半身を反らすだけで躱した。ニヤッと笑った後に、蹴りを防いだ腕を軽く揺すって、痛みを逃がす程度だ。再びファイティングポーズを取る。


「軍人さん、名前は? 俺は源次郎だ」『やっぱり源次郎だっ!』

『去年新人に一票差で負けた奴ぅ?』『そう! カレンダーさぁ』

「うるせぇ! おめぇら聞こえてんぞっ!」『あっ、怒ったぁ!』

 取り囲んでいる奴らが、苦笑いの源次郎を見てクスクスと笑う。

 どうも締まらねぇと思いながらも、源次郎は対峙する将校の目をジッと睨み続けていた。向こうはもう瞬きもしないではないか。


「陸軍第七三一部隊所属、井学大尉だ」「ほぉ。大尉殿よろしく」

『おい陸軍だってよぉ』『強いのか?』『さぁ』『何だ? 七三一部隊って。お前知ってっか?』『知る訳ネェだろ』『お前は?』『いやぁ? 聞いたこと無ぇ部隊だなぁ。『ごっこ』なんじゃねぇ?』

 一応挨拶を交わして睨み合ってはいるものの、『周りの大きな噂声』は源次郎の耳にも入っていた。同意見だ。聞いたことが無い。

 最近はアンダーグラウンドにも陸軍がウロチョロしているが、どうもそいつらとも違う。何者なのだろうか。そもそも本物か?


「ちなみに、そっちに転がってるのは?」「同じく、臼蔵少尉だ」

「ほぉ。どうやら『そういう設定』って訳じゃァ、無さそうだな」

 肩の『階級章』を見た所で『どっちが偉いのか』なんて判らない。

 少なくとも、今はどうでも良い。二人共『コスプレ衣装である可能性』も含めて。早いトコ取り押さえるのみだ。源次郎は井学大尉との距離をジリジリと詰めて行く。すると井学大尉の口が開く。


「ここは何処だ? 今年は何年だ?」「はぁ?」

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