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海底パイプライン(百五十)

 江戸時代の街並みを再現したと言っても、ちゃんと現代に合わせた仕掛けは存在する。グランドフロアとの行き交いには『エレベーター』もあるし、街中には『監視カメラ』だって設置済。

 屋内に設置してある明かり。流石に天井からぶら下がった現代照明は無く、全て行燈である。障子越しに見れば火がチロチロと動く様は、本当に『火を点けている』かの如くであるが、実は違う。

 床下に設置された無線式の給電装置で点灯する、『電気式』だったりするのだが、そこは『防火』を考えてのことである。


「うわっ! 消えねぇぞっ!」「消火器なんかじゃダメだっ!」

 精々『寝たばこ』を想定してのことである。とても『航空燃料がまき散らされる』なんて、思ってもいなかった。設計上の想定外だ。

 しかも天井の板が割れて、実に燃えやすくなってしまっている。

 確かに『手持ちの消火器』で消せるレベルを超えてしまっていた。


「地上の消防隊に連絡だっ!」「はぁ? 『ち組』じゃねぇのかよ」

 吉原ビルに限らず、東京二十三区内で巨大なビルを建設する場合は、法律により『自営消防隊の設置』が義務付けられている。

 これは人工地盤上を消防車が自由に走れないから、というのもあるし、梯子だってビルの上方は全然届かない。せめて『消防士だけでも派遣してくれれば』と思うのが人情かもしれないが、だったら『自分達で用意して置け』となるのが当たり前だ。当然地下の吉原にも伝統の『ち組』なる自営消防隊が設置されている訳だが。


「馬鹿っ! あれはエンタメだっ! マジもんの火事は無理だっ!」

「ちょっとそんなハッキリ言わなくても」「良いから呼んで来い!」

 言われた男は空になった消火器を放り出し、首を竦めると行ってしまった。確かに『ち組』は半被を着て『ち』と書かれた纏を振りながら屋根の上を走り回る。が『実際の消火活動』は行わない。

 て言うか、『かぎ爪で破壊消火の振り』をしているだけなのだ。

 営業の合間に執り行われる『色物』に過ぎないが、しかし遊女たちには絶大な人気がある。何せ『色男が目を合わせてくれる』から。


「くそっ、このままじゃ崩れるぞ。どうしたら良いんだ……」

 男は周りを見渡して誰も居ないのを確認すると、懐からスマホを取り出した。全く時代に合っていないが、今はそんなことを気にしてもいられない。いや十分気にしていたか。

 客は勿論、遊女だって持ち込み禁止の機器を、持ち込んで良いのは『黒服』に決まっている。しかし、ここ『地下吉原』では『黒づくめの背広』ではなく、『家紋』がついた法被である。

 あと『ちょんまげ』が目印。故に呼名も本人らの希望である『黒服』ではなく、『ちょんまげ』で広く浸透している。


『バキバキバキッ!』「うわっ、もうダメだっ!」

 大きく曲がっていた二階の天井が、音を立てて動き始めたのを見て、男も消火器を放り投げて逃げ出した。上を見ながら。

 男の後ろでは『原因となったヘリ』がご挨拶しているが、振り返る暇もない。何しろ天井が落ちて来ているのだから。


「ちきしょぉぉぉっ! 何てこったぁぁぁっ!」

 目の前の柱が無事なのを確認して、思いっきりジャンプした。

 柱の上にある二階の天井は、斜めにはなったものの、まだ辛うじて柱と繋がっている。男は三角形の隙間に逃げ込んで振り返った。

 しかし既に『何が見える』ものでもない。形を保ったままの天井が斜めになってたわんでいるだけだ。それがもう一度音を立てている。多分一階までぶち抜いたのだろう。もう外へ出るしかない。

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