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海底パイプライン(百四十九)

 見つめ合った一組の男女が、怪しい光の仲で絡み合う。

 さっきまで着ていた着物。女は赤、男は紺であったが、今は混ざり合って紫になろうかと。いやいや。それは無いか。女が下、男が上になった所で動きが止まった。離れた唇から女の声が漏れる。


「ねぇ、本当に見受けしてくれるの?」「あぁ、任せておけ」

 これで何度目の確認だろうか。しかし男は嫌がらずに頷く。

 何しろ目の前で『好きな女の笑顔』が何度も拝めるのだ。これを喜ばずして、何を喜ぶと言うのだろう。二人は再び絡み合い始めた。

 今度は男の顔が女の胸の方へと下がるにつれ、女は顎を上げ、上半身は胸を押し付けるように逸らしている。女は若干寂しくなった唇を震わせながら、ゆっくりと目を閉じた。そのときだ。


『ドォォォンッ!』「何だっ!」「あっ、縮んだっ。ちょっと」

 男は肩を窄めて顔を上げた。その勢いで女の胸が激しく揺れたにも関わらず、それは見逃している。腰と背中に回していた手も外し、布団を拳で突いて上を見上げた。女は顎を引いて下を見ている。


『バリバリッ! ヒューンガランガラン!』「今のは?」

 男が下を向き女に話し掛けた。女は顔を上げる。笑顔だ。

「そんなの判る訳n」『ドンッ!』「キャァッ!」「うわぁぁっ!」

 突然の出来事に同じ部屋の男女が叫び声を上げた。

 ここは吉原で一番安い部屋であり、お隣とは『屏風一枚』で隔てられているだけである。


『あっ若旦那ぁ、こんにちわ』『おや、どうもどうも。何だい。番頭さんもここの贔屓かい?』『それが今日は『可愛い新造』がって、おやその娘かい? 若旦那も手が早いなぁ。どう?』『それがここだけの話! まだ『マグロ』でして……』『あぁ……』

 とまぁ、そんな話があってもおかしくはない。

 しかしそれでも『やることはやれる』し、それで不満のない客が集う場所でもあるのだ。当然それなりに『お楽しみ中』である。


『バリバリバリバリッ!』「逃げろっ!」「キャァァァッ!」

 それが突然、天井が大音響と共に二つに割れて、大きな物体が突き刺さって来たのだ。鉄か鋼か真鍮か、材質を気にする必要もなく、ただ『当たれば死ぬ』と誰しも思うこと受け合い。

 何せ今は一枚しか見えていないが『船のスクリュー』と言われてもおかしくはない大きさで、それが回転しながらなのだから。


「うわぁぁぁっ!」『ドンッ!』「ひぃぃぃぃっ!」

 男は女を置いて逃げ始めた。何? 見受け? そんなのは『生きていることが前提』に決まっているではないか。

 女の方は『さっきまで頭の下にあった枕』が、真っ二つになっていることを残念ながら知る由もない。男が逃げた瞬間、絡み合った着物に引っ張られて布団からはみ出していたからだ。


「ちょっとっ!」「こんなの聞いてないっ!」「待ってっ!」

 女にしたって『幸せの絶頂』からの転落である。腕を伸ばして助けを求めても、男は尚も逃げることを止めやしない。

 絡まっていた着物が『解けぬ』と見るや直ぐに脱ぎ捨て、屏風の上に掛けてあった『誰かの着物』を奪い取ったではないか。

 幾ら『レンタル着物』だからと言って酷い扱いだ。女はガクンとなりながらも立ち上がり、木端が舞う中を猛然と追い始める。


『ドォォォンッ!』「今度は何だっ!」「火事だぁぁっ!」

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