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海底パイプライン(百四十四)

『ドォォォンッ!』「スッゲェ迫力!」「何かのアトラクション?」

 誰もが初めて訪れた『楽しい場所』で、思いもよらぬ事件が起きたら。頭の片隅で『違う』と判っていても尚、『仕込まれた何か』と思いたいのだろう。顔は青ざめているが表情は冷静を装う。


「なぁ、今突っ込んだのって『ヘリ』っぽくねぇ?」「だよなぁ」

 一番特徴的な『ローター』は既に何処へ。流線型の先頭部分と、それに続くテイルローターを見て『ピンと来た』のだろう。正解だ。

「んな訳ねぇ。ここはアンダーグラウンドだぜぇ?」「だよなぁ」

 テレビの特番で見ただけで、実際にこの目で見たことはないが、『アンダーグラウンドがどういう所か』についての知識はある。

 だから『ヘリである訳がない』と思うのも無理は無い。

 客の賛否は賛成一票、反対一票、そして曖昧が二票。いやいや『曖昧の二票』は同一人物だ。三人並んだ右側の客が真ん中を向く。


「お前、どっちなんだよ!」「全くお前は、いっつも流されてさぁ」

 このままでは決着が付かないからと、結局両方から肘鉄を食らう。

 左右にふらついたかと思ったら、両サイドの攻撃を同時に振った腕で遮り、片足でドンと床を突いてから声を荒げる。

「んなこと、俺が判る訳ねぇだろっ! 結局どっちなんだよっ!」

 本気で怒りだしてしまった。何れにしても『目の前の現実』に、『好転の兆し』は感じられない。街は壊れて行く一方だし、監督らしき人物から『カットォッ!』の合図も掛からない。

 故に着物姿の男女が、振り返りもせず一心不乱に逃げ惑う姿が。


「非難して下さいっ! こちらですっ!」

 案内人の声が裏返っている。声も若干震えていた。

 それもそうだ。呑気なお仕事が一転。客を外へと安全に誘導する『責任あるお仕事』に変化してしまったのだから。気持ちが昂る。


『グワッシャーンッ!』「うわやべぇ」「すっげぇなぁ」

 巨大な換気扇が屋根を切り開いた所にヘリコプターが突っ込んで、建物を更に壊してしまったのだろう。重さに耐えかねたヘリコプターが、時間差で屋根から沈み込む。そして街路まで落ちて行く。

『ドォォォォンッ!』「おぉ!」「爆発した」「早く来なさいっ!」

 燃料タンクに引火したのだろう。黒い煙と炎が一気に広がる。

 するとスプリンクラーが作動した。天井から『焼け石に水』的な感じで水が降り注ぎ、広範囲に水煙が立ち込める。これで安心だ。

 いやここは『雨に濡れると溶けてしまう世界』である。著者も忘れがちだが。現地では忘れずに当然『水道水』を使っている。

 しかし雨を恐れる客達は、余計パニックへと陥ってしまう。手を頭の上にして走り出した。阿鼻叫喚の叫び声が見学通路にも届く。


「やっべぇ」「死にたいんですかっ!」『ジリジリジリィィィッ!』

 まだ見ている客の腕を、案内係が強引に引っ張る。

 と、そこへ見学通路に非常ベルの音が鳴り響く。同時にシャッターが降りて来て、見る間に視界を塞いでしまったではないか。

『火事です。係員の誘導に従って、非難して下さい。火事です……』

 無機質な人工音声の声が響き渡る。録音したのが『人間』だったとして、流れる日が来ようとは思ってもいなかっただろう。

 それは案内人も同じだ。まさか『避難訓練を実践する日』が、本当にやって来ようとは。しかも『自分が案内をしている日』に。

 非難訓練では遊女仲間を『客役』にして誘導するのだが、おふざけも手伝って『相当に手の掛かる客』であった。しかし現実の客を案内する段になって、それが『大分マシ』に思えるから不思議だ。

 何しろ目の前の客は、『全然逃げてくれない』のだから。

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