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海底パイプライン(百四十二)

 古き良き江戸の街並みがそこにはある。柳の並木道の両側に並ぶ家屋は、木造だが『三階建て』と、一般の家にしては大きい。

 屋根は反りが入った瓦葺で、通りに面した玄関は造りがとても豪華。凝った彫り物に飾られた様は、良く見れば一軒一軒が異なる志向である。どうやら『主の趣味』を強く反映しているようだ。


「こちらが『メインストリート』でありんす」「おぉ。凄いなぁ」

 振袖に身を包み派手な簪を髪に挿して。顔は白粉の案内人に連れられた観光客が、ガラス窓越しに街を眺めている。

 残念ながら撮影は禁止。ズラリと並ぶ建物の窓一つ一つから『明かり』が漏れていて、時折人影が映る。しかし見学者はその件について誰も『質問』はしない。一体『何が』行われているのかを。


「では後ろの階段を上がって頂き、『上空からの街並み』をご覧いただきやしょう。今夜は『太夫の部屋』を覗き見れますよ?」

 案内人が長い袖を押さえて、たおやかに階段を指さした。

「おぉっ!」「それはラッキー」「良い日に来たなぁ。早く行こう」

 見学コースを歩いていた男共は、喜び勇んで階段へと向かう。

 何しろ『太夫』と言えば『一番の別嬪さん』と決まっているからだ。案内人も『綺麗所』ではあるが。

 何しろ今の時代、東京の街はコンクリートが蔓延っている。そこで幾ら『珍しい街並みだ』とは言っても、彼らは決して『この街並み』を視察しに来た訳ではないからだ。

 階段へ急ぐ客を前にして、案内人がクスリと笑う。


「お部屋にいらっしゃるとは、限りませんが?」「えぇえぇっ!」

 最後の一人が苦笑いで振り返ったが、足を留めるつもりは無いらしい。寧ろ案内人の『冗談』だと確信して階段を駆け上がる。

 何せこの『吉原見学コース』は有料なのだ。しかも時間制限だってある。それでいて『予約も困難』と来れば、一秒だって無駄には出来ぬ。結局案内人が一番最後になってしまった。


「そんなに急がんでも『お部屋』は逃げませんでぇ?」

 見えている街並みと違って、こちらは明らかな『現代建築』である。非常口の『走るサイン』も掲出されているし、『何処で使うねん』と思える消火器だって、ご丁寧に一定間隔で配置済。


「おぉおぉ。ここが『地下』だなんて思えないなぁ」「あぁ凄い」

 廊下の壁紙と照明が辛うじて『雰囲気』を醸し出しているが、それも良く見れば『電飾』であることは隠しきれない。

 案内人が階段をゆっくり上がると、既に客達が窓際に擦り寄っていた。指で指しているのは『太夫の部屋』だ。確かに今日は『見学者向けに』と窓が開け放たれている。豪華で派手な調度品が垣間見えているのだが、残念。やはり『人影』は無いようだ。


「お客様、ここは『地下』ではなく、『吉原ビルのアンダーグラウンド』でありんす」「そうなんだぁ」「説明受けただろう?」

 どの世界にも『そそっかしい奴』は居るものだ。別の客から頭をコツンとやられて恥ずかしかったのか、案内人に助けを求めている。


「本当の地上から百尺分の空間に、江戸時代と同じ建築様式で、吉原の街並みが再現されているんでありんす」「ずっと夜なのぉ?」

「はい。こちらは『不夜城』ならぬ、ずっと『夜の街』でござんす」

 ニッコリ笑いながら案内人が腕を回し、目の前の街並みを示した。

 ずっと遠くまで家屋が続いている。良く見れば『天井』は有るものの、黒く塗られているのか気にはならない。

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