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海底パイプライン(百四十)

「中佐、井学大尉のヘリが墜落しましたっ!」「何だって!」

 血相を変えた表情で、いきなり食って掛かって来たものだから、報告した方が驚いている。その上襟元まで掴まれてしまった。


「どういうことだっ!」「昨晩、突然通信が途絶えてしまって」

「何処でだっ!」「ご存じ無いのですか?」「無事なのか!」

 襟元を握り締めたまま、大きく揺すられて答えにくい。その上、帽子まで飛んで行ってしまった。行方を追うことも出来ずにいる。


「ずっと中佐を探していたのですが、連絡が付かなく、ゲホッ」

「私のことは良いっ! だから無事なのかっ!」「わ、判りまっ!」

 まるで息子を案じる親の様であるが、当然血縁関係は無い。

 報告した本人だって、『地元が一緒らしい』としか知らないのだから、この反応は面食らっている。そこへもう一人がホームに落ちた帽子を拾いながら、デッキに飛び上がって来た。


「中佐っ! 至急司令部にお戻りくださいっ! 詳しくはそこで!」

 急いで二人を引き離す。すると石井中佐はやっと手を離した。

 どうやら二人は『お使い』らしい。詳しくは知らされていないのだろう。揺すった勢いで、顔色が悪くなってしまっている。


「済まなかったな」「いえ。お気遣いなく」「ほれ帽子」「あぁ」

 襟元の皺を伸ばしてやるつもりで、ポンポンと叩く。上目遣いでお辞儀しながらも、男は石井中佐の手を遠慮する。皺ぐらい自分で伸ばせるし、また掴まれたらたまったものじゃない。

 石井中佐も自分の帽子を被り直した。二人が素早く身支度を整えたのを確認して、男が車を指し示した。


「お送りしますので、どうぞ」「うむ」「ホラ行くぞ」「はい」

 僅かな時間であるが、佐々木車掌にしてみれば迷惑タイムに他ならない。聞こえてしまった『話の内容』からして、亡くなったのは、以前同乗していた『あいつ』であると思い出す。

 カバン持ちなら『一緒じゃないのか』とも思ったが、軍のことは良く判らない。若くして亡くなってしまうとは。気の毒ではあるが『お悔みの言葉』を掛ける前に、一同は足早にジープに乗り込む。

『ブォオオオンッ! キキキキィィィイッ!」

 そのまま急発進して行ってしまった。一応拝んでおこう。


 走り始めたジープの中で『東京から伝えられたこと』の説明が始まっていた。石井中佐は腕組みをして、時折頷きながら聞く。

「井学大尉のOHー1は『中佐をお迎えに上がる予定』でフライトを開始しまして、レーダーの解析によりますと、亀戸で一旦着陸しています。何かご存じありませんか?」「そこで一旦合流したんだ」

「そのときの機に異常は?」「特に無い」「着陸したのは『工事現場』みたいですけど、そんな所に。あのぉ『不時着』ですか?」

「いや、そうではないが、詳細は『軍機』だから、今は言えぬ」

「判りました。その後、直ぐレーダーから消失していますが、もしや目の前で『墜落した』とかは? ご覧になられましたでしょうか」

「それは無い。大尉はアンダーグラウンドで『特殊な任務』について貰ったのだ」「えぇっ? そんな狭い場所にぃ?」「そうだ」

「明かりもなく真暗ですよね?」「無論だ」「それは幾ら何でも無茶では? ご命令ですか?」「責任は当然私にあるが、井学大尉の判断だ」「どうしてまたそんな無茶を……」「大尉は友軍のヘリが強奪された一報を聞いて急ぎ向かったのだ!」「そんなことが……」

 後部座席の男が驚き黙り込んだのを見て、前の男が振り返った。

「あのっ、それ以上は司令部でお願いします」「そのつもりだっ!」

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