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海底パイプライン(百三十九)

 少々言い訳がましく後方確認をして、その場をやり過ごす。

 まだまだ突っ込み足り無さそうにしていた石井少佐だが、車掌の業務が始まったのを察知して話し掛けなくなった。

 窓から涼しい風が入って来る。眠気も吹き飛んだ。終点の大湊駅から基地までは数キロあるが、海を眺めながら歩くのも嫌いじゃない。何しろ今日は穏やかな晴。雨の心配をする必要も無い。

 高速貨物列車の東鱗二号は、定刻通り大湊駅へと滑り込んだ。


「少佐殿、直ぐお降りになるのであれば、貨車には十分お気を付け下さい。毎度ご乗車、有難うございました」「世話になったね」

 ルーティンワークの途中に、佐々木車掌はサービストークを混ぜて頭を下げた。石井少佐も右手を軽く上げて了承している。

 本当は安全が確認されるまでウロウロして欲しくはないが、とりあえず列車が停車すれば降りるであろうことは、容易に予想できる。

 そんなに急いでいるなら『今度は飛行機にしろ』なんて、口が裂けても言えないが。


「停止位置ヨシッ。では私は、機関車の方に行かないと、なので」

「有難う。いい旅だったよ」「それは良かったです」

 石井少佐からは見えて居ないかもしれないが、列車が止まる寸前から人が集まっていた。荷物を待ちかねた者達だ。

 多くは軍事物資だが一部は民間品もある。荷捌きは『毎日のこと』なので、実に手慣れていると言えるだろう。安全とは何処へやら。完全に『タイムイズマニー』だ。マニーマニー。

 佐々木車掌は再度石井少佐に会釈して、列車を降りようとした瞬間である。一台のジープが乱暴に走り込んで来たではないか。

 そこから運転手を残し、二人の兵士が飛び降りて走って来る。


「中佐はご乗車中ですか!」「石井中佐です。御髭の!」

 走りながら大声で叫んでいる。佐々木車掌は足を止めた。

「おられませんよ?」「何だってっ! どこで降りたのだ?」

 兵士の二人が途端に足を止めた。一人が振り返って運転手に両手で×印を。すると運転手は血相を変えて無線を取り出す。大変だ。


「いや、最初から乗ってません」「そんな馬鹿な!」「いや本当に」

「築地からこちらにご乗車されたのは、既に確認済なんだぞっ!」

 急ぎの用なのか、それともまさか『逮捕』でもしに来たか?

 佐々木車掌は混乱していた。どう見ても『ヤバイ状況』に、これを『運が悪かった』で済ますには酷過ぎる。

 首を捻りながらも、一応と思いつつ確認だ。


「あのぉ『石井少佐』なら、ご乗車はされてますけどぉ?」

「馬鹿もんっ!」「階級章を見て判らんのかっ!」

 一人が走って来る。もう一人は無線を飛ばしている運転手の方に、両手で『○印』を出しながら走って行く。どうも忙しい。

「すいません。私は国鉄職員でして。軍の階級にはイマイチ疎くて」

 無茶を言う。佐々木車掌はビビリながらも首を竦めてやり過ごす。

 少なくとも昨日『ご予約』があったときは、確かに『石井少佐』だったのだ。しかしどうせ『同じ国家公務員ではないか』とか言って、因縁を付けて来るに決まっている。これだから軍って奴は……。


「どうした。私ならココにいるぞ?」「あっ石井中佐、大変です!」

 佐々木車掌は、駆け上がって来た男に突き飛ばされてしまった。

「うわっ!」「大丈夫かね!」「はいあのぉ」「ん?」「階級間違えてすいません」「いや良いんだ。中佐は『今日から』だからネッ」

 車掌を支えて穏やかに笑う中佐だが、次の一言で態度が豹変する。

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