海底パイプライン(百三十五)
黒井は渋い顔で黒田を睨み付ける。どうせ今の冗談は『エロ』を絡めた奴。しかし普段の生活での異性は『黒岩おばちゃん』だけ。
何を突っ込むのかは判るとして、『何処に突っ込むのか』は疑問が残る。黒田を睨み付けたまま、黒井は無事『指定された暗闇』へと突っ込むことに性交した。すると意外にも中は広い。
「あの明かりが見えるか?」「寧ろそれしか見えないが」
黒田が指さした方向に明かりが見える。しかも二列に並んで。
こんなアンダーグラウンドに『空港』が? しかし指さされた先にあるのは、どう見てもまごうことなき誘導灯。言わばここは『アンダーグラウンド空港』だ。
「じゃぁ、そこへ向かってくれ」「降りて良いのか?」「大丈夫だ」
まさか降りた瞬間、『敵に囲まれる』のは御免蒙る。
それでも遠目には『ちゃんとした滑走路』に見えるのだから、黒井も今度こそ安心していた。やっと『まともな環境』に思える。
後の問題は『管制官とのやりとりが行えないこと』だろうか。
「他に来ないのか?」「んん?」
黒井は手を素早く動かして、滑走路から『こっちに上がって来る』のと、『後ろからギュンと来る』のを表した。不思議そうにしていた黒田だが、それを見て『ピン』と来たのだろう。大きく頷く。
「あぁ、今日のフライトは『この機だけ』だ」「そうか。判った」
黒井は安心したのか頷き、穏やかな顔で前を向く。
「だと思う」「コラじじぃっ! ふざけて『良いコト』と『悪いコト』があるからなっ!」「思うぐらい個人の勝手だろぉ?」
やっぱり僅かでも『黒田を信じた』のがいけなかった。
しかし今更『取り消し』も許さない。この滑走路長なら『軽飛行機』程度が限界。身軽な飛行で、是非ヘリを避けて欲しい。
「でなぁ? 何人か犠牲は出たんだが、やっと『新宿の研究所で、雨に溶ける研究をしてるらしい』って、聞いてなぁ?」
無事『着陸態勢』に入った所で、急に黒田が話し掛けて来た。
「はぁっ? ちょっ、ちょと待て。何の話だぁ?」
ファイナルアプローチの準備をしていた黒田は、驚きつつも前を向いたまま話を打ち切る。
「何ってお前、そりゃぁ『作戦の説明』だろうがぁ」
黒田にしてみればさっきまで『話せ』と言っていた奴が、今度は『話すな』とか。さっぱり意味が判らない。
「離発着時は話し掛けるなっ!」「そうなのぉ?」「そうなのっ!」
誘導灯に近付くと『空港の様子』が見えて来た。一応『管制塔』らしきものは目視できたが、正直『もう良いや』である。
「へいへい」「飛行機、乗ったこと無いのかよっ!」「有るよぉ」
「じゃぁ『機長の言うことは絶対』って覚えて置けっ!」
滑走路に滑り込んだ。しかしこれはヘリ。車輪は無いから地上一メートルを飛びながら……。あれ? ブラックホークには有るな。
てことは、着陸して滑走してもOK? ブレーキはどれだ?
「ちっ威張っちゃって。もう良いのかぁ?」「まだ飛んでるだろ?」
「何だ。まだなのかよ。はやくしろっ」「空港内も無駄話禁止っ!」
確かタイヤが付いていても、飛行機みたいに『滑走してはダメ』だったはず。黒井は滑走路を滑走せず、低く飛びながらヘリポートに到着した。するとたちまち『銃を持った兵士』に取り囲まれてしまったではないか。黒井は思わず両手を上に上げる。




