海底パイプライン(百三十)
「ソレって言われても」「何だぁ? 知ってんだろう?」「知ってますけど」「じゃぁ良いじゃん」「いやぁ」「いやって何だ。本当は知らないのに『知ってる』って言っちゃったって奴かぁ? そういうのは良くないぞぉ?」「だから知ってますって」「じゃぁどんなのか教えてくれよ。あっもしかして『お前の世界』では、もう海兵隊、有ったとか? だったら判る」「いや無いですけど」「はぁ? 何だ。お前の居た日本にもまだ無いのかぁ。じゃぁ本当は、知らないんじゃねぇか?」「いやいや。アメリカには有るんで」「アメリカに有るからって、そんなんで『知っていること』にはならんだろ」「それがなるんですよ」「はぁ? 部隊編成とか装備とか、全部公開されてんのかぁ?」「ある程度は」「嘘だろ。公開する訳がネェ」「嘘じゃないっす。アメリカとは『同盟』組んでるんでっ!」「お前も馬鹿なことを言うなぁ。アメリカと同盟なんて組んだら、メキシコとの同盟が切れちまうだろうがよっ!」「いやいやいや。『こっちの世界情勢』と、話を混ぜないで下さいよぉ」
前と横を交互に見ながら『ヘリを操縦する』のは忙しい。
それでも橋の下をスルッと抜けるのは、『大分慣れたから』と言えようか。大したものだ。
しかし黒田はムスッと黙ってしまった。いつものヘラヘラした感じは無く、厳しい表情で外を眺めている。
スナイプするときでさえ、冗談ばっかり言っていた癖に。今更何を隠そうとしているのか。黒井は『はぁぁ』と深い溜息をつく。
「俺は一体、何に巻き込まれてるんですかぁ?」「知りたいかぁ?」
黒井の問いを聞いた途端、黒田がこっちを向いた。表情はパッと明るくなって、指をヒュッとやって黒井を指す。悪戯っ子か。
「いや別にぃ? どうせ『碌でもないこと』なんでしょぉ?」
今までのことを考えれば、正直『素晴らしい』と思えるようなことは、万が一にも有り得ない。それだけは自信を持って言える。
「そんなに知りたいかぁ」「だから良いって」「しょうがねぇなぁ」
今度は態度が恩着せがましい。互いに笑顔で『自己主張』をしているが、さっきまでと『立場』が逆転しているような気もする。
「これからなぁ? 海兵隊を再編して、北海道を取り返しに行くんだよ。どうだ。素晴らしい考えだろぉ?」「はぁ? 北方領土じゃなくて、北海道ぉ?」「何だぁ? その『北方領土』って。樺太辺りかぁ?」「いや、樺太は既に『放棄』してるんで。もっとコッチの国後、択捉、歯舞、色丹のことっすよ」「何放棄してんだよ。取られたら、取り返しに行けよ」「いやいや。それは大問題になっちまいますって」「何でだよ。それが戦争だろぉ?」「ダメダメ。こっちの世界戦争は、日本が負けて終わったんですよ?」「休戦じゃなくて?」「そう。無条件降伏して負けましたっ!」「ふうぅん」
自分とは関係の無い世界のことなのに、黒田は納得できないのか、大分不満そうである。黒井は呆れてしまった。
「俺の居た世界じゃぁ『世界大戦』が二回もあって、『力による現状変更』が国際法で認められてないんですよ」「そっかぁ」
黒田は生粋の軍人なのだろう。何だか『寂しそう』に見えるのは、きっと気のせいではないはずだ。『フッ』と息をして黒井を見た。
「だとしたらお前の世界は『常識』がちょっとおかしいよなぁ?」「そうすかぁ? 俺に言わせりゃあ、んな『休戦中』とは言え、まぁだ『日露戦争』とかやってる『こっちの方』が大分おかしいっす」「何だとぉ? 核戦争後の世界から来た奴に、言われたかねぇ」




