海底パイプライン(百二十八)
平然とした顔をしているが、黒井は内心焦っていた。
理由は簡単。名前が『普通』だから。親しく話している様子から、どう見ても『黒田の仲間』なのに、名前に『黒』が付かない。
偽名で通す『ブラック・ゼロ』のメンバーではないのだろうか。
とりあえず今、燃料補給は有難い。手を伸ばして握手が先だ。
「よろしく少佐」「こちらこそ。お噂はかねがね」「ちょっとぉ」
握手をしながらお互いに『大佐』をチラ見。どうやら話には聞いていたようだ。どんな風に伝わっていたのか。良い噂ではなさそう。
「いやぁ大佐から『ココに降りろ』って言われたときにはさぁ『ガリソンじゃヘリは飛ばねぇ』って、思っちゃったんだけどねぇ?」
こちらも『親しい体』で少佐に告げ口。苦笑いで片目を瞑りながら、親指で大佐殿を指さした。しかし高瀬少佐は目を剥いて驚く。
「あれ? 『我々が待機している』って、聞いてませんでしたぁ?」
どちらも上官になる訳だが、もし本当なら『連絡ミス』は頂けない。だからと言って、大佐を責める訳にも行かないし。
「いやぁ。大佐の『秘密主義』には困ったものでぇ」「判ります」
中佐が『理解を示した』のを見て安心したのか、笑顔になった。
やはり黒田は『どの組織』に於いても、部下を困らせる名人に違いない。黒井だって『補給地点』を聞いていれば、もっとちゃんとした『フライトプラン』を立案できるのだから。
「少佐、すまんが二、三発食らったみたいだからさぁ」「ええっ?」
当の大佐殿が話をぶった切って来た。握手のために手を伸ばしていた高瀬少佐を機外に押し戻し、上にある『メインローター』を指さした。『逃げよう』ったって許さない。
が、そこは黒田の方が一枚上手。黒井が動き出す前に『座ってろ』と合図される。確かにここは『安全地帯』ではない。要待機。
しかし降りる前に『アッカンベー』をされては、黒井も堪らない。
「オイルが染み出てないか、ちょっと診て貰えるかなぁ」「えっ? 『無傷のぶち込み隊長』が、まさかの被弾でありますかぁ?」
おいおい。一体『どんな噂』が独り歩きしている? それは『俺であって俺でない』とも言えず、黒井は焦っていた。
「かすったのは『ノーカン』だっ!」「なるほど。流石ですっ!」
確かに黒井は『自衛隊時代』に、全て『無傷で帰投』している。
寧ろ『無傷でなかったら帰れない立場』であるからにして、至極当然と言えば当然。『この世界』では『空戦が日常茶飯事』なのか。
同じ『F2乗り』であったとしても、『ミサイルをバンバンぶち込んでいた方の黒井』とは全く違う。
きっと黒田の口からの『説明』は、一切無いものと思われる。
「あぁ。こんぐらいなら、大丈夫ですよぉ。見た所、平気ですね」
高瀬少佐は整備も出来るのだろう。だとしたら安心だ。
「そうかぁ。何か凄い音がして、その後オイルの臭いとかしたけど」
どうしても『被弾した事実』を伝えたいのか、黒田の方が心配している。どうせ『ヘリは素人』なんだから、黙っていれば良いのに。
「まぁ、今、飛んでこれたんだから、きっと、まだ大丈夫ですよ」
「そうか。だよな」「はい。オイルの焦げた臭いもしないし。うん」
「穴も開いてない?」「えぇ。心配なら整備士に診て貰って下さい」
高瀬少佐は『補給部隊』だった。結局全員『ヘリは素人』らしい。




