海底パイプライン(百二十七)
「そっとだぞっ! そっと降ろせっ」「判ってるから黙ってろっ!」
突然の場面転換。アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十四)からの続きである。書き下ろした去年の十二月から、リアル時間で三カ月が経過してしまったが、状況に変化は無い。
今は燃料が切れそうなブラックホークを、パイプラインの『中継基地』に向けて降下させている最中である。
『プゥ。プゥ。プゥ。プゥ』「これ、うるせぇぞっ。何とかしろ!」
燃料計の針は既に『ゼロ』を指している。警告音が鳴り続けるスピーカーを黒田が指さしているが、黒井はそれ所ではない。
「警告音どうにかなんねぇのかっ!」「じじぃは黙ってろっ!」
一喝して操縦に集中する。黒田は『黒井の後頭部』を引っ叩いてやろうと思ったが、地面がもう近い。ここで引っ叩いた拍子に、ヘリがひっくり返ってしまったら元も子もない。グッと我慢の子だ。
「ぬぅぅぅっ! 降りるぞっ! 掴まれっ!」
下を見れば事前に打ち合わせた通り、『仲間の車』が来ていた。
荷台には『ドラム缶』が積んであって、その横、車外にて赤い筒を持って身構えている。あぁ『消火器』をこちらに向けているのか。
心配してくれるのは有難いが、もし火災になったら『その程度で済む炎』にはならないであろう。本当に『気休め』程度だ。
『ドォォンッ』「おわぁっ!」「さぁどうだっ! 降りたぞっ!」
結構強めの『軟着陸』であった。ヘリの『設計強度以内』の衝撃に抑えたのが判る。窓ガラス一枚、ヒビすら入らず見事な着陸だ。
その直後『ヒュンヒュンヒュンヒュゥゥゥゥン』と、メインローターの回転が『気の抜けた音』に成り下がる。エンジンも静か―になってしまった。本当に『燃料ピッタリ』での到着だ。
「でかしたっ!」『バシンッ』「いてぇなおいっ!」「ハハハッ」
「ハハハじゃねぇよ。全く。この馬鹿力めぇ……」
折角無事だったのに、その一撃で怪我をしちまう。黒井は思った。
黒田には是非『加減』というものを覚えて欲しいと。
すると地上で待ち構えていた男が、消火器を車の荷台に放り込み運転席へ合図した。直ぐに車が動きこちらへとやってくるが、操縦席に用事はないらしく、ヘリの後方へと通り過ぎた。
運転手と二人組か。消火器を放り込んだ方の男が小走りで黒田の姿を見つけて走り寄って来る。
黒田が軽く手を上げると、男は立ち止まって敬礼。それからドアを開けようとするが、一歩間に合わず。黒田が先に開けていた。
「ご苦労さまです大佐。作戦通り、見事な着陸でしたな」
ニッコリ笑って出迎えた男は、街中なのに全身迷彩服である。
どうやら黒田のことを『大佐』と呼ぶ辺り、黒田の前歴を知る軍人、いや『元軍人』であろうか。
「あぁ。だから心配無いって言ったろう? 中佐は『プロ』だから」
黒井を親指で指さして、勝手に『中佐』で紹介している。
本当は『二等空佐』なのだが。しかし『この世界』には存在しない階級なのだから致し方なし。黒井も笑顔で敬礼をして見せた。
すると男の方が真顔になって、ビシっと敬礼を返したではないか。
「ご苦労さまです。挨拶遅くなって申し訳ありません」「いやいや」
「自分は海兵隊の補給部隊所属。高瀬でありますっ」「彼は少佐だ」




