海底パイプライン(百二十六)
「もぉ何なのぉ? パンツパンツって、そんなにパンツが珍しい?」
朱美は『丸めたメイド服一式』をロッカーから引きずり出した。
このロッカールームを設計したのは、一体どんな『変態野郎』か。
真っ先に思い浮かんだのは高田部長の顔。きっとAV事業部の奴らに『フェイルセーフとは』を説き、今頃『ほらね』と自慢している。アウトだアウト。貴様の存在自体がセクハラだ。
「ムカつくわぁ」『イチョウヤク イリマスカ?』「要りません!」
『オダイジニ シテクダサイ』「どうも、ありがとうございますぅ」
独り言にまで反応してくれるなんて、何て親切なんでしょう。でも今は、そう言う『冗談』は要らないので。朱美は掻き分け続ける。
やっとパンツを見つけて手に取った。思わず臭いを嗅ぐ。
「くっさぁっ。なぁんちゃってぇ。そんな訳ないジャン」
自分で頭をコツンとやって、一人笑う。何故なら『洗濯をお願いする側』というのは、『洗濯をする側』がいくら『気にしない』と判っていても、つい『気にするもの』なのだから。
実家のホテルで『ルームクリーニングのお手伝い』を体験したときに判った。そもそも『気にする程の時間』が無い位、忙しい。
『ショウシュウザイ イリマスカ?』「ちょっと!」『スコシデスネ スグ』「待って待って。臭う訳ないでしょうがっ!」
思わずパンツを二度指さして天を仰ぐ。念のためにもう一度嗅ぐ。
全然臭わない。大丈夫じゃないか。百歩譲って『シミ』があったとて、まだ『発酵が進む』ような時間は経過していないはずだ。
『……バタンッ。カンキセン キョウ ニ シマシタ』
「何『天窓』開けてんのっ! 換気扇っ! 冗談じゃないわよっ!」
人工知能二号機の『顔』は実装されていないが、何だか鼻を曲げつつ、しかめっ面で『換気扇を回している姿』が思い浮かぶではないか。朱美は地団太するしかない。
人間の想像力は大したものだ。この場合の『とばっちり』は、後で富沢部長に向かうことだろう。
『パンツ ヘンキャクグチ ハ ミドリランプ ノ バショデス』
何だか声が『鼻づまり模様』に聞こえなくもない。思わず溜息だ。
「はいはいはいはい。これを入れれば良いんでしょお?」
朱美は呆れつつも『緑のランプ前』に立つ。
しかし、こうして『人工知能』は、どんどん成長して行くのだろうか。出来れば『変な方向』へ成長をしないことを祈るばかりだ。
「あれ? ちょっと入り口が、随分『薄っぺらい』んですけど?」
まるで『郵便受け』のようにしか開かない。これはご丁寧にも『パンツ専用』であることは明白だ。幅もピッタリだし。
『コチラノ センヨウケース ニ イレテ クダサイ』「あぁこれ」
カチャンと出て来たのは、少々硬めの素材で出来た『透明のケース』である。これまた『パンツ専用』であることは明らか。
外側は四角であるが、『パンツの型のガイド』が用意されているではないか。こんな物を、一体何処に発注したのかを問いたい。
朱美は一瞬『婚約指輪を引き出すために、パンツを用意している』と、全くの見たまんまのことを思ったのだが、止む無しである。
ケースを『郵便受け』に挿入したら、隣の扉が開くはず。開いて貰わないと困る。開かなかったらどうしてくれようかっ!
「はいっ入れましたぁよっ!」『バチンッ』「痛っ! 何すんの!」
強めの語気と共に突っ込む。するとその勢いのままに、朱美は頬を扉で打たれていた。思わず打ち払えば『カチャ』と閉まる音が。




