海底パイプライン(百二十五)
人工知能二号機は開発中止になったものだ。それがどうやら、バックアップとして機能しているらしい。
きっと前回、人工知能三号機がダウンしたときの反省として、高田部長が仕込んだに決まっている。
「着替えるので、ロッカーを開けてくれないかしら?」
『オヤスイ ゴヨウ デス』「あぁあぁあぁ。全部開いたわ……」
確か『違い』は『乗りの良さ』と言っていたような?
そんな理由で『ゼロから作り直すか』と言われれば、朱美は『勘弁願いたい』と思う。それをやり切るのが『高田部長との違い』と言われればそれまでだが。認める認める。凄い凄い。
『ホカ ノ ゴヨウ ハ?』「着替え終わるまでちょっと待って」
朱美は一言添えて着替え始めた。人工知能三号機と違って、ここで余計なことをしたり、言ったりはしないのか。
慣れてしまうと、これはちょっと拍子抜けと思う面も否めない。
もし、『どちらが知的か』と問われれば、当然『人工知能三号機』に軍配が上がるだろう。
朱美は『貸衣装』を全部脱ぎ捨てて、『返却用』と思しきロッカーに全て押し込んだ。扉が通路を塞いで邪魔なのでパタンと閉める。
見事なスッポンポンを晒しながら、自分の下着を仕舞ったロッカーまでやって来た。流石に女子更衣室に『センサー』は有っても、『カメラ』は無いと信じている。故に今は『心眼のみ』が頼りだ。
「有ったら、誰だって構わず訴えてやるわ。例外は認めなぁい」
さて、何名が訴えられたか。ちなみに著者は何も見えていない。
それより『ロッカーの扉が開かない』なんてことになったら、今まで以上に『大変な事態』である。しかし朱美は、下着以降の扉が開いているのを確認済で、勝利を確信して微笑む。はい着替え終了。
「これで良し。忘れ物は……。あっ!」
と、そこで、最後に『貴金属のロッカー』が開いていないことに気が付く。誰の策略か。入り口まで来ていたが、出口まで逆戻りだ。
貴金属は最後に外したので、本来なら一番最初に回収すべき。
「ココの扉、貴金属のロッカーを開けて頂戴!」
朱美は上を向き、扉をノックして見せた。直ぐに開くだろう。
『アキマセン』「どうもって、あれ? ちょっと早く開けて頂戴!」
朱美は当然のように『開いた』と思っていた。しかし爪の先がロッカーを引っ掻いただけで状況に変化は無い。もう一度上を向く。
『アキマセン』「えっ? どうして?」『ブツリ ロック チュウ』
どうやら遠隔操作で『電子的な解錠』が出来ない状態らしい。
朱美は思わず溜息をついた。今日はうっかり『徹とのプレイ』で『婚約指輪』を着けっ放しで出社してしまったのだ。
高田部長はそれに気が付いて、からかったのだと思われる。いやらしいほどに良く見ている奴だ。
しかし指輪は、当然のことながら返却願いたい。一体『幾ら』すると思っているのだろうか。値段ではないが、こうなると値段だって言いたくなる。三カラットのダイヤの指輪でごじゃいますぞ!
『シタギ ノ ロッカー ヲ ツカウ ト アケラレル ヨウデス』
「はぁ? 何それぇ。ふざけてるのぉ?」『イイエ シヨウ デス』
そうだった。人工知能二号機は『冗談』とか言わないんだった。これは『丸めた貸衣装』を取り出すしかない。




