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海底パイプライン(百十七)

 目の前のメイドさんは『人形ドール』ではなく、『生身の人間』であることは明白である。だから走り出した奴が狙ったのは、朱美の足元であった。ヘッドスライディング。怪我が何だ。


「はいはい。ストップゥ。落ち付いてぇ。よいしょっと」「ぐへぇ」

 集団ヘッドスライディングを、見事片足で止めたのは琴坂課長だ。

 遠慮なく頭を踏みつけて、『パンツ』ではなく『床』を見せる。一人は舌を噛んだかもしれないが、そんなのはお構いなしだ。


「ちょっと冗談だから、本当にやらなぁい」「はい。ご主人さま」

 良く見たら、もしかして『人形ドール』だったか?

 まだ『演技』を続ける朱美に、琴坂課長は首を傾げるばかり。目だけを動かしてこちらをチラチラと見ているが、全くの意味不明だ。


「おぉっ! 良く守ったなぁ。何だぁ? 『新しい女』かぁ?」

 テーブルに置いてあったマグカップを持ち上げながら、琴坂課長をヤジったのは山口課長だ。思わず振り返った江口部長と目が合って、苦し紛れの一言を付け加える。


「きっと離婚したんすよ。ここはチャンス到来かぁ?」「嘘っ!」

 その瞬間江口部長の頭の中で『物語』が動き始める。

 琴坂課長の顔を良く見れば、確かに『大分お疲れ』のご様子。それに『人形ドール』は『結婚指輪』をしていない。琴坂課長は『夜のお店以外で結婚指輪をしない派』だ。つまりっ!


「主任っ!」『パァァァァンッ!』「うわぁっ! 何だぁっ!」

 江口部長が『立ち上がった』のと、山口課長の手にしていたマグカップが『砕け散った』のは、ほぼ同時であった。

 マグカップは取っ手を残して、中に入っていたコーヒー毎吹き飛ばされて粉々に。行き場を失ったコーヒーは壁にベットリと付いてしまっている。突然の出来事に、江口部長は言葉を失っていた。


「あっぶねぇ。ほぼ飲み終わっていて良かったぁ」

 もし山口課長の隣に座っていたら、マグカップの破片が顔に突き刺さっていたかもしれないが、それは無い。

 何故なら奴は、今『床を舐めている』からだ。何味かは知らん。


「課長、これで何個目ですかぁ?」「良く割れますよねぇ」

 意外にも会議室は、和やかな雰囲気を保ち続けていた。寧ろ焦っているのは朱美一人。驚きの余り、ちょっとちびったかもしれない。

 会議室に入ったときの『違和感の理由』がやっと判った。

 誰も気が付いていないようだが、窓に貼られた『ガムテープの修理跡』は、この『狙撃の結果なのだ』と理解するのに十分だ。

 しかし『開いたばかりの穴』を見るに、『相当の厚さ』があるではないか。それを一撃で撃ち抜いた事実。狙われたのは『山口課長』と判るが、その『理由』も『使用した狙撃銃』も判らない。


「うるせぇなっ! 今度は割れても良いように『百均』で買ったわ」

 狙われた本人は文句を言いながらも、まだヘラヘラ笑っている。

「いや、飛び散って危ないから、鉄製にして下さいよぉ」

「そうですよぉ。毎回『掃除する身』にもなって下さいねぇ?」

 誰も気が付いていない? そんなことってある?


「ステンレスの奴は『高い』だろうがぁ」「保温性は良いっすよぉ」

「良いから雑巾早く!」「はぁい」「全く。幽霊にも困ったもんだ」

 江口部長が指示して終わりかよ。AV事業部、恐ろしい部署だ。

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