海底パイプライン(百九)
琴坂課長はもう一度時計を見た。説明を続ける。
笑っていて聞いていなかったとしても、どうせ『極秘の賞品について』の説明なのだ。別に何ら問題ではない。寧ろ忘れて下さい。
外部でペラペラ喋られた方が、余程面倒臭いことになってしまう。だから、感情を押し殺して淡々と話す。時間も無いことだし。
「まぁ兎に角ぅ、AI搭載で『今までの記憶』が有る状態で授与されるので、そこで突然『顔が違う』となると大問題な訳ですよ。と」
一息つくとスクリーンの映像が切り替わった。『人形の立ち絵』と、その横に特徴となる『説明』が羅列されている。
「瞬きもするし、お肌は『人肌』そのもの。何よりプレイ中は、リアルに表情が変わるようになっていて『足でロック』なんてことも」
資料をガン見している。どうやら誤植か。スクリーンと見比べて、『こっちは合ってる』と思って頷く。とりあえず『眼鏡』を掛けていたら、ここで位置を直していたことだろう。
「可愛いおべべを着せて撮影するときに『オート』にしておくと、その場で『ポージング』もしてくれます。勿論音声で指示通りにも動きますが、その場合は『親密度』に応じて表情も変わりまぁす」
再びスクリーンを見て『タンッ』とやると、椅子に座った『エリザベス』が映し出された。『ゲーム中の衣装』とは違い、女性ものの『普通の衣装(若干エロ)』を着て椅子に座っている。
手前の床に膝を付いて映っているのは『カメラマン』であろう。
『良いよぉ良いよぉ。じゃぁ足、組んでみようかぁ』
『はい。ご主人さま』『ウィィッウィィィン』『カシャカシャッ』
「まぁ、プロトだから『モーター音』が大きいのは勘弁してねぇ」
琴坂課長が苦笑いで説明するが、もう誰も聞いてはいなかった。
さっきまで煩かった一同が『シーン』となって、スクリーンを凝視しているではないか。道理で静かだった訳だ。映像は続く。
『イイネェイイネェッ。足を高く上げながら組み直してみよう!』
『……恥ずかしいです』『何がぁ?』『先程下着を取られて……』
溜めのある表情。唇を震わせては居るが噛んではいない。そこまでの『顎の動き』を、プロトタイプでは再現出来なかったか。
『だからどうしたっ! 早くっ!』『……はい。ご主人さま……』
抵抗も虚しく、指示には抗えないらしい。うつむき加減になって目を逸らすと、組んで上になっていた方の足が動き始める。
『ウィィィィン』『カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ』
何枚撮っているのやら。床に転がりながらレンズをエリザベスに向けているのだが、果たしてそれでピントが合っているのかは不明。
素人の『テスト風景』である。どうせ何もかもオート設定だろう。
『目線をカメラにっ!』『ウィィン』『そうっ。挑発してっ!』
スクッと起き上がったので、カメラマンの頭が『肝心な部分』を隠してしまっているが、それは一種の『お約束』であろうか。
『プツン・END』「えっ?」「あっ!」「おぉ?」「終りかよ!」
「とまぁ、こんな感じで、お楽しみ頂ける賞品となっておりまぁす」
資料をトントンとやって、説明も終わりのようだ。しかし『フィギアだと思っていた』奴らからの質問が構わず飛び込んで来る。
「こんなん『ロボット』じゃないですかっ!」「いや歩けないし」
「誰でも親しくなるんすかぁ?」「いやぁ一発目でスイッチが入って記憶してくれるシステムになってるよ?」「マァジィすぅかぁ!」
「でも『ゲーム中の顔』と違ってたら、やらしてくれないからね?」




