海底パイプライン(百五)
「あぁそれね。勿論『ゲームの中』で、装備してくれますよぉ?」
ニッコリ笑って答えられても困る。いや、そもそもお前たちは『受け取って貰えるまで、親しくなれるのか』と問いたい。
物理的に見下ろしている琴坂課長の目が、何やら見下しているかに見えてイラつく。だから声も荒くなる。
「いやだからぁ、『現実世界ではどうなるんですか』って……」
「はいはいはいはい。判ってますって。ちょっと待ちなさい」
話を打ち切ってスクリーンを『タンッ』と叩く。一同は注目。しかし説明を始める前に、琴坂課長が笑いながら一同を指さした。
「君達は本当に『やりたいだけ』なんだなぁ。あれか? お金を掛けたら掛けただけ、『元が取れないとイヤッ』てかぁ?」「……」
何とも嫌な問いだ。『YES』とも『はい』とも答え辛い。しかし琴坂課長も、『それを判って』わざと聞いているに違いないのだ。
「まぁ『この業界』は、『そう言う奴』に支えられているんだけどなぁ。歓迎するよぉ。ウエルカム。ウエルカム」「……」「……」
笑顔で両手を手前に振り『来い来い』と誘っているが、その誘いにはどうも乗り辛い。これがAV事業部・第一課のやり方なのか。
もしそうだとしたら、第三課のままでも良い気がする。
一部の課員はそう思って山口課長の方を見れば、目下『鼻毛を抜いている所』だった。やっぱり部署異動した方が良いと思い直す。
「映画出演した女の子キャラについては、最終ミッション後に『人形』が贈呈されるので、そうなったら一緒に貰えます」
スクリーンにはストーリーチャートが映し出されていた。
それによると『ゲームで最終選抜に残って映画出演』から始まって、『映画で生き残る』とある。成程。映画のストーリー中に、死んでしまうこともあるようだ。っておいおいっ!
「随分と『狭き門』なんですねぇ」「そりゃそうです。当たり前」
「自分がプレイして『貢献したポイント』が反映されるんですか?」
「エリザベスをプレイして、ポイントを『一番多く稼いだ人』かぁ」
「そんなの『課金廚』しかなれないじゃん」「だよなぁ」「んだぁ」
すると琴坂課長が一歩前に出て、両手を左右に振り出した。
「はぁ? 君達、一体何を聞いていたの? 貰えるのは『男の方』だからね?」「えっ違いましたっけ?」「違う違うぅ。良く聞けっ」
もう一度スクリーンを指し示した。小さい字を直ぐに拡大表示だ。
「最終選抜に選ばれた女の子に、『パートナーとして選ばれて』、初めて『候補』になるんだからねぇ?」「あぁ、そうだったぁ」「何だ。それも絶望じゃん」「どっちみち、課金廚しか勝たぁん」
顔を顰め、頭を抱える課員達。まだゲームリリースもしていないのに、もう『ゲームクリア目前』のようではないか。
「でも、例えば『エリザベスを攻略した人』が、複数人居た場合は、誰が選ばれるんですかぁ?」「おっ、そうだ。それどうなるの?」
一人だけ『気が付いた奴』が居たようだ。しかし琴坂課長は笑っている。どうやらその程度のことは『想定内』なのであろう。
「そりゃぁ全員に決まってるでしょうが。別に一人とは言ってない」
「おぉおぉっ!」「それならまだ何とかなるか」「微かな望みがっ」
微妙な笑顔ではあるが、会議室に明るい空気が流れ始めた。
「ちょっと待てぇっ!」「何ですかぁ?」「もしかして条件がぁ?」
「良いかぁ? 親しくなって『パンパンした奴』はダメだからな!」




