海底パイプライン(百四)
セリフを吐き捨てて、琴坂課長は一同を睨み付けた。
相当にお怒りのようだ。楽な方楽な方へ流れるのは、例えゲームであっても許せないのだろう。荒い鼻息がそれを物語る。
そこへ一人の男が、恐る恐る手を上げた。琴坂課長が頷く。
「あのぉ、普通に『能力値』とかは、見れないんですかぁ?」
「能力値?」「いやあのぉ、学生だから『学力』になるんですかね」
思わず苦笑いだ。琴坂課長の顔を見て直ぐに判った。だから判りやすいように『ヒント』を与えたつもり。どうやら琴坂課長は『心』『技』『体』のステータスについて、まるで知らないようだ。
「学力ぅ?」「はい。『成績』でも良いですけど」「はぁ?」
まだ首を傾げている。会議室に失笑が渦巻き始めていた。
キャラを成長させて行くゲームであれば、必須な数値であるのにも関わらず、まさか用意が無いのだろうか。
「そんなもんは、職員室なり、サーバー室なりに侵入して、ハッキングすりゃ良いだろうが」「また犯罪っ」「捕まったらどうすんの」
「警報装置を無効化すれば大丈夫だ」「どうやって?」「課金課金」
不思議がっている理由は、『余りにも当然なこと』だったからのようだ。お腹が減ったら『食事をする』のと一緒か。
「えぇ?『課金アイテム』が、必須なんですかぁ?」「高そう……」
「十万」「やっぱ高いわぁ」「そりゃそうだ。実際にハッキングしている所なんて、見せる訳には行かないだろう? ゲームとは言え」
スクリーンに表示されたのは『主な課金アイテム』の一覧だ。
「謎のこだわり」「ホントだ。『ハッキングツール』有るよ……」
「ジャンクから使えそうな部品を探すのもアリだが、課金アイテムを使えば安心確実やりたい放題出来る。それがゲームの世界だろ?」
商品のラインナップが兎に角凄い。琴坂課長が『ジャンル』のタグを操作して『商品名』をチラチラ表示させているのだが、それだけでも『ヤバイ』ことがヒシヒシと伝わって来る。
「宝石とか下着って、やっぱり『プレゼント用』ですかぁ?」
「いや宝石なんてすんごい高いのあるけど? 何すか『億』ってぇ」
「あぁ、こっちの宝石一覧は『リアルの品物』でなぁ、ちゃんと宝石商と契約して実物が買えるんだ」「買ってどうするんですか?」
「だから『プレゼント用』だってば」「誰にぃ?」「そうですよぉ」
「何言ってんだよ。『リアルの女の子』だってログインしているんだから、それ位は覚悟しておけよ。だからキャラの顔は『実物』に出来るんだからさぁ」「あぁ、そう言うこと……」「しかしなぁ」
男共が心配しているのは、女共だって『実物ではない可能性』が高いことだ。何しろ一番安い宝石でも十万からである。
「と言うことは、下着もプレゼント出来るんですかぁ?」「まじ?」
半分冗談だろう。そう思って苦笑いしながら聞いてはみたものの、琴坂課長は普通に頷いたではないか。どうやら普段から、表示されているような『エロい下着』を、プレゼントしているのだろう。
「これを相手に贈ると、ゲームの中で『装備してくれる』のは勿論のこと、実物が相手にも配達されるから、安心してくれたまえ」
「でも五万って」「たけぇ」「下着ってこんなにするんですかぁ?」
「そりゃぁやっすい物を贈れないだろ。女の子は下着にだってお金が掛かるもんなんだ。だからねぇ安易に破いたりしちゃダメだぞっ」
横で聞いていた朱美は、思わず頷く所だったのをグッと堪える。
「でも『女生徒』に贈ったらどうなります? 実在しませんよね?」




