表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1290/1530

海底パイプライン(百三)

 首を傾げながら『はい』と答えることに、何の意味があるのか。

 しかし、元気が良ければそれで良い。ゲームの制作は体力勝負。作るのも、テストするのも、膨大な時間と体力が必要なのだ。

 特に作り込みが細かいものなら尚更である。しかし『デモ版』とは言え、これを琴坂課長はたった一人で作ったのだろうか。


「あのぉ、もっと『簡単な出会い』とかは、無いんですかぁ?」

 今『リアリティが大事』と説明したばかりなのに。琴坂課長の顔はそんな顔をしている。三秒考えても、意味が判らなかったようだ。

「と、言うとぉ?」「入学式の日に『街中でぶつかって』とかです」

「はぁ?」「えっ、判りません?」「全然判らん。何?」「アハハ」

 さっきまでとは違う失笑が、会議室を包み始めていた。どうやら琴坂課長は『出会い系のゲーム』をプレイしたことがないのだろう。


「ほらぁ、『食パン咥えて走って来る』って奴ですよぉ」「でっ?」

「いや『でっ』って言われてもぉ」「マジで知らないんですかぁ?」

 失笑は『驚き』に変っていた。流石に『こいつ常識も知らねぇのか』な雰囲気になったことは琴坂課長にも判る。

 しかし、常にリアルを求め続けて来た者なら判るはず。街中で『食パンを咥えたまま走っている奴』なんて、見たことが無いのを。


「それはぁ、苺ジャムを塗っているときはアンディに出逢って、小倉餡を塗っているときは栄子に出逢って、ママレードを塗っているときはオズに出逢うとか、そういう感じのぉ?」「いやいやいや」

 不思議な展開に向かっている。早く止めないと、明後日の方向に行ってしまう可能性が高い。しかし手を顎に添えて、もう遅いか。

「違うの? 出来なくは無いけど、俺ママレード嫌いだからなぁ。そうすると、オズには永久に出逢えなくなっちゃうなぁ。うーん」

 考える所か、益々真剣な顔つきになって悩み始めている始末だ。


「別に、そこまで細かくなくて良いんですって!」「焼き具合も?」

 仕様については、ちゃんと聞こえているようだ。きっと思い描いていたのは、トースターの仕上がりにするか、素早く焼くなら魚グリルにするかであろう。急いでいても、走ってまでは食べない。

「焼き具合もパンのメーカーも何処でも良いんですっ!」「ふーん」

 何とか元に戻すことに成功した模様。まだ首を捻ってはいるが。


「じゃぁ『鑑定スキル』も、無かったりするんですかぁ?」

「いやぁ、それは有るよぉ」「えっ? リアル重視なのでは?」

 するとスクリーンに向かって『タンタンッ』と叩くと、『鑑定をしているシーン』に切り替わった。『相手の情報』が判るようだ。

「ほら、こんな感じで『ステータス』が判るようになってます」

 表示された情報を『タンッ』とやって、自信有り気に言うのだが。

「いやいやいや」「それは無いでしょぉ?」「何だ? また問題?」

 あっという間に否定されてしまったではないか。寧ろ『出す画面を間違えたか?』と思って振り返るが、ちゃんと『鑑定結果』が表示されているではないか。首を傾げながら一同に向き直った。


「その『胸囲八十+七』って何ですか?」「胸パット有りだけど?」

「じゃぁ『ウエスト-十五』ってのは?」「コルセットを付けてる」

 さも当然のように言い放つ琴坂課長に、一同は暴動寸前である。

「えぇぇっ!」「そんなのインチキじゃないですかぁ」「いやいや」

「いやじゃ無いっす。そんなステータス、絶対見たくないですよぉ」

 どうも『リアリティの方向』に、深い溝があるようだ。すると一人が立ち上がって、スクリーンを勢い良く差し示した。


「そもそも何すかぁ? 右上の『生理中』ってのはっ!」「えっ?」

「そうっすよぉ。そんな情報出してどうすんですかぁ?」「えっ?」

 琴坂課長は完全に困惑していた。何度も振り返って確認しているが、まるで『一足す一を間違えた』かのような表情で驚いている。


「コレ要らんのぉ? エロいゲームをやるんだから、必須しょぉ?」

 今までで一番の驚きを隠せないでいる。しかし反発は収まらない。

「そんなの気にしながら『エロ』なんて、出来ませんよっ!」

「それって『プレイ』には、関係するんですかぁ?」「マジかっ」

「うわめんどくせぇ。ぜってぇイライラするだけですよぉ」

 今まで数々のエロ動画を作って来た彼らにしても、完全に『その発想は無かった』である。すると琴坂課長は怒りだしてしまった。


「お前らまさか、彼女を『タダでやらせてくれる風俗嬢』とか、思ってないよなぁ? ちゃんと『今日は出来ません』って判るようにしてやってんだから、それを踏まえてお付き合いしないとダメだ!」

「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」

 静かになった所で、琴坂課長は演台を叩き、スクリーンを指す。


「良いかぁ? 『女の子』ってのはなぁ、凄く繊細なんだっ!」

 仮にも『結婚している者』と、『彼女居ない歴=年齢』の奴らとは、『言うことの重み』が全然違っていた。一人だけ性別は異なるが、『彼氏いない歴=年齢』の江口部長だって、大きく頷いている。

 するとスクリーンに『会話のシーン』が現れた。


「鑑定スキルが無い場合は『プールの授業を休んでいる』とか、『何か今日は機嫌が悪い』とか、デートの約束しても『その日は』って断られるとか、そういうので判断するんだっ!」「……」「……」

「エロはなぁ、ただ『パンパンしてりゃ良い』ってモンじゃねぇ! そんなことじゃ直ぐ嫌われるし、足元すくわれるぞぉ? たくっ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ