海底パイプライン(百二)
「ちょっとゲームバランスが、ぶっ飛んでませんかぁ?」「そう?」
ひとしきり説明をした所で、首を傾げている奴からの問いが。
しかし問われた琴坂課長の方が、首を傾げる角度が深い。
「だってほぼ犯罪を、いや『モロ犯罪』繰り返さないとダメじゃないですかぁ」「そうですよぉ。何ですか『食堂のおばちゃんが媚薬を入れる』ってぇ」「友達を利用するだけ利用して退学に追い込むとかぁ」「担任の弱みを掴んで、エリザベスを保健室に引っ張って来させるとかぁ」「まともなこと全然してねぇよなぁ」「んだぁ」
エロいゲームも、それなりにプレイして来た経験に照らし合わせて、勝手に評価までし始めている。前途多難だ。
「なぁにぃをぉ、甘っちょろいことを言ってんだねぇっ!」
強い調子に、会議室はたちまち静まり返る。琴坂課長が目を剥いて一同を睨み付けていた。ポインタを振りながらの強い口調。
「君達は今まで、散々『犯罪』を描いて来たんじゃないのかねぇ?」
正論には正論で返す。それが琴坂課長のやり方である。
「えぇ? どうなんだぁ? 幼気な少女に対して、何をしたぁっ!」
ここはAV事業部。エロい動画をクリエイトする部署である。
「ほらぁ。何も言えないじゃないかぁっ!」「そういうことじゃぁ」
故に、ありとあらゆるシチュエーションを描いて来たことは、否定出来ない事実である。トップページの『エロ動画のジャンル一覧』を見たとき、それはどう見ても『犯罪の見本市』ではないか。
「いや、それを言われてしまうと……。なぁ?」「うん。このゲームと一緒にされても困るよなぁ」「純粋なエロなんだしさぁ……」
会議室が騒めき始める。これで何度目だろうか。しかし『自分達は間違っていない』とか『自分達は許されている』と、心の片隅で思っているのは覆い隠せない事実。これは『仕事なのだ』と。
『バンッ』「それが甘いんだっ!」「!」「……」「……」「……」
琴坂課長が、演台を思いっきりと叩いていた。今までの飄々とした言い方とは違い、かなりの力で。一同ギョッとして黙り込む。
「良いかぁ? 『地球を救おう』という目的のためにエロエロ学園(仮称)に入学した女学生をだ、コイツ等は私利私欲のために『落とそう』としているってことを、忘れてはいないかぁ?」「……」
おいおい。何の話かと思ったら『設定の話』になってしまっている。今問題にしていたのは、多分『倫理の話』であったはずなのに。
「だったら『犯罪スレスレ』のことだって、やるに決まっているだろうがっ! やらないでどうするぅ? 先にやられちまうぞぉ?」
スクリーンに『パッ』と動画が流れ始める。エリザベスだ。
攻略が成功して成就した『エロいシーン』である。さっきは説明を優先して早送りしたのに、今度はそのままの速度で。
スケスケのローブでベッドに横たわり、目は既にトローンとしている。揺れる唇は『早く来てぇ』の動きか。
琴坂課長は一同の方を見て、スクリーンを『タンッ』と叩く。
「良いのかぁ? エリザベスを誰かに譲ってもぉ?」「ぃぃぇ」
「声が小さぁいっ!」「いいえっ!」「いいえっ!」「いいえっ!」
声を揃えてキッチリ否定したところで、琴坂課長は満足気に頷く。
「君達は『設定』というものを何と考えているぅ? もっと『リアル』を持ち込むべきだっ! 世の中、そんな簡単じゃないぞっ!」
「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」




