海底パイプライン(九十九)
「じゃぁ、映画に出た人が『賞品』を貰えるんですか?」「それだ」
「いや、違うんだなぁ」「えぇー?」「まぁ『賞品』については後」
琴坂課長はスクリーンを切り替えて『登場人物』を示した。
「先ず『メインヒロイン』が五十人で、男キャラは無制限と」
半笑いで説明されても、『プレイする立場』の男共にしてみれば、そんなの溜まったもんじゃない。いや、溜まりっぱなしか。
「ちょっと多いよぉ」「確率低すぎっ」「そうかなぁ」「ですって」
「もっとカジュアルに『エロを楽しみたい』って人はどうすれば?」
「そうですよ。どうせ映画に出るなんて無理って、皆思ってますよ」
すると琴坂課長がスクリーンを『タンッ』と叩くと、突然『登場人物』が増えた。振り返って見えたのは笑顔である。
「そういう人は、『メイドさん』を狙って下さい」「朱美かっ!」
当の朱美は、さっきから『目だけ』をピクリとさせている。
「えーっと『メインヒロイン』はガードが凄く硬いので、ログイン直後とか『初心者』は、絶対に近付けません」「えぇえぇええっ!」
騒ぎが大きくなったのは、ゲーム画面に切り替わったからだ。
「いや『取り巻き』多過ぎでしょ?」「既に『ボスキャラ』ですが」
「そりゃそうだぁ。『良い所のお嬢さま』かも、しれないだろぉ?」
教室入り口に、十人以上のメイドが並んでいて、教室に近付くことも出来なければ、教室から出て来たメインヒロインの姿は、そもそもメイドさんの陰に隠れていて、全く見えないのだ。
そうなると、今出て来たのは『誰』が『誰やら』である。
「髪の色と、洋服の色が、チラっとしか判りませんがなぁ」
「だから『女の子』を操作しているときに、特徴を覚えてくれ」
再び画面が『集合写真』に切り替わった。確かに特徴は有る。
「まじかぁ」「あと、女の子の『派閥』とか『敵対関係』もなぁ」
「何か関係するんですかぁ?」「関係するって」「めんどくせぇ」
全然カジュアルではない。寧ろ難易度が高過ぎるきらいも。
「派閥の中で『上下関係』あるから、下から攻めないと相手にされないし、違う派閥の女の子に手を出すと、関係切れるかもなぁ?」
ゲームの『設定をしている方』にしてみれば、楽しいのだろう。
琴坂課長は『ニコニコ』しっ放しである。するとそこに問いが。
「すいません、右上の人って、本当に『女』ですかぁ?」「どれぇ」
「あっ、気が付いちゃった?」「うほっ!」「いや、顎青いジャン」
集合写真の右上の女の子を『タンッ』と指すと、立ち絵が拡大表示され、プロフィールが紹介されたではないか。妙に凝ってる。
「本当のゲームでは、こんなに判り易くしないけどなぁ」「マジか」
「マジです。マジでマジです。だから『何か話がトントン進むなぁ』と思っていたら、『開けてビックリ』ってこともありまぁす」
「地雷かよっ!」「それって『キャラ選択時』に判るんですかぁ?」
その質問はごもっともである。しかし琴坂課長は悪戯っぽく笑う。
「どっちが良いと思う?」「そりゃぁ判った方が良いっす」「んだ」
会議室を見回してみても、全員が頷いている。琴坂課長も頷いた。
「じゃぁ、判らないようにしておこう」「ちょっ!」「鬼畜かっ!」
「良いんだよ。どうせそういうのは、直ぐに『噂』が広まるもんだ」
苦笑いで言われても全然説得力が無い。課金しまくって『男でした』なんてなったら、絶対にクレームが殺到するに違いない。
「メイドさんは確実に『女の子』ですよ?」「そうなんですかぁ?」
「イェース。だって『リアル女子』がメイドさんなんで」「マジ!」




