海底パイプライン(九十六)
「どんな商品なんですか?」「後で説明する」「豪華って幾らの?」
「んんー。大体五百万ってとこかなぁ」「たっかっ!」「スゲェッ」
「まぁ『どんなのか』は後で説明するとしてぇ、思い出して欲しい」
琴坂課長が『タンッ』とスクリーンを叩いた。画面が切り替わる。
「先程『NJSの総力を挙げて取り組む』と言いました」
どうも『ゲーム画面』を凝視し過ぎていて、誰も覚えていないようだ。困った連中である。しかし映し出された『会社名』を見て、次第に会議室が騒めき始めた。琴坂課長は『そうそう』と頷く。
「先ず『NJS・エンターテイメント』も、本企画に参加します」
「映画とか作っている所じゃないですかぁ」「そう、あと音楽も」
確かにそう。NJS・AV事業部は、NJS・エンターテイメントが制作した『映画名』をモジった『エロ動画』を制作している。
音楽まで発注すると凄く高く付くので、残念ながらそこは『フリー素材』でいつも誤魔化しているのだが。バレてないバレてない。
「今回は全面協力の下、『映画』を作って貰いまぁす。脚本は家が担当で、ストーリーは『最終選抜後の暗黒帝国との戦い』です」
「えっ? 本当に?」「ガチの映画ですか? エロじゃない奴ぅ?」
「はいその通り。エロじゃない奴です。が、しかしポイントが一つ」
人差し指をピンと伸ばして、笑顔で指し示す。全員が注文した。
「いつもなら『エロ動画の題名が後』ですが、それを今回は『先』に考えて頂きまぁす」「エロ動画の題名が、先なんですかぁ?」
一同目を剥いて、口をパカンと開けている。顔を見合わせて。
確かにそれは『斬新なアイディア』なのであろうが、そんなことをしたら『胴元』と言うか、配給元に怒られて、しま、う?
「あっ、家が脚本やるからかっ!」「その発想は無かった!」
「でも『エロい方が先』だなんて、聞いたことが無いよぉ」
「はいはいはいはい。やったことがないからって、諦めないっ!」
琴坂課長がスクリーンをタンタンしても、会議室は賑やかなまま。
「あれだろぉ? 『INSERT』が先で、『INSPIRE』が後みたいな?」「そうなんだろうけどぉ、結構ムズイなぁ」「それじゃぁ、音が似てる『印刷屋』じゃダメ?」「全然ダメだろぉ」「お前なぁ。『暗黒帝国との戦い』なんだぞぉ?」「そっかぁ……」
多分『題名』についても、これから考えるのだろう。金一封が出るかは別として。取り敢えず『今見えてるの』は、とても『本番』には使えそうにない。どうも琴坂課長は『技術は一流』かもしれないが、ネーミングセンスは『三流』どころか『壊滅的』だ。
「すいません」「何だね?」「あのぉ、『大甕工場』と『実籾工場』は何をするんですか? そこって、『ハード』の工場ですよね?」
「でもほら、『中央研究所』も協力してるって、書いてあるし?」
確かに『協力部門の一覧』を見れば、それが『NJSの総力』と言っても過言ではない。今の所、説明が『ゲーム』と『映画』なので、『ハード屋さん』が出て来る理由がさっぱり判らない。
すると琴坂課長は真面目な顔になり、会議室を見回しながら話を始める。手に持ったポインタで、左手をポンポンしながらだ。
「ここは是非『基本』に立ち返ってくれ」「基本?」「立ち返る?」
まだ『コンセプト』を判っていないようだ。琴坂課長は江口部長を『ジッ』と睨み付ける。すると江口部長が慌てて立ち上がった。
『ガタッ』「現実をも超えた想像の世界ですっ!」「反応が遅いっ」




