海底パイプライン(九十三)
「今日のはあくまでも『サンプル』なんで、実物は募集しますねぇ」
スクリーン一杯に表示された女の子達を見て、沸き立つ会議室。
しかし琴坂課長の表情は『こんなもんこんなもん』で実にあっさりしている。確かに最近はAIを使えば『可愛い女の子の画像』等、ものの数秒で描けてしまう。一期一会にも程がある。
「これも、『金一封』が出るんですかぁ?」「まだ決めてなぁいっ」
「何だぁ。ケチィ」「俺、本気出しちゃおうかなぁ」「私の写真を」
いちいち反応するのは良いことだが、プレゼンが前に進まない。
琴坂課長は『押さえて押さえて』と両手を前に出して振った。
「はい。コレ『シンディー』ね」「えっろっ」「胸デカいなぁ」
今度は一人だけの『立ち絵』が表示されていた。制服なんだか戦闘服なんだか、はたまたコスプレ衣装なんだか、兎に角エロイ。
だから『いちいち盛り上がるな』と、声を大にして言いたい。
「これもAIだけど、AIのは『著作物』にはならんので、一人づつ人間がデザインすることになるんだけどね。あくまでもイメージ」
手元を操作すると、再びスクリーンの映像が切り替わる。
「これが『アンジェ』次は『イリナ』んでもって『エリザベス』」
立て続けに三人表示されたが、何れも外人であった。
人種はそれぞれ違っていて、民族的な『美女の特徴』を兼ね備えており、何れもグラマラスな恰好である。ポージングも素晴らしい。
「何かそれっぽいなぁ」「はいはい。イメージ、イメージ」
煩くなる前に、説明を先へ進めようとしたときだ。声が掛かった。
「あのぉ、日本人は居ないんですかぁ?」「俺、小胸が良いなぁ」
お前ら静かにしろと言わんばかりに手を前へ。絵を切り替える。
「はいはい。『みゆき』『幸子』『朱美』」「ベタな名前だなぁ」
皆、一応に苦笑いだ。しかし『CG』に不満を言うものは皆無。
「良いんだよぉ。イメージなぁ?」「あのぉ『朱美』ってこの子?」
紹介された『日本人キャラ』は、全員『メイド服姿』であった。
しかも最後に映し出された『女の子の姿』は、どう見てもスクリーンの横に立っている『朱美』である。どちらの朱美も、色気も何もなく、ただ突っ立っているだけであるが。
「朱美、ご挨拶」「はい。ご主人さま」「おぉおぉっ! 動いたぁ」
両手を前で重ねて立っている『気を付け』の姿勢からのご挨拶。両手でスカートを持ち上げながら、右足を後ろに引く。引いた右足を軽く曲げながらお辞儀をすると、無表情のまま元に戻る。完璧。
「おねーさん、バストいくつあるのぉ」「はち切れそうじゃんっ!」
「この娘どっから連れて来たんですか?」「お持ち帰り可ですか?」
今まで誰も触れて来なかったのが嘘のように、今度は朱美に視線と声が集まっている。しかし朱美は、眉一つ動かさずに立ち尽くすのみ。いや別に、もう『電撃』は来ないはずなのだが。
「はいはいはい。話を進めますよぉ」「煩くするなら私が替わる!」
誰が申し出たかはこの際伏せておくにして、一瞬で静かになった。
場が温まって来たと思った矢先の静けさに、琴坂課長は苦笑いだ。
「第一弾としてリリースするのは、この『女の子を操作する』のと、同じ学校に通う『男の子を操作する』モードがある『ゲーム』です」
説明と同時に『メニュー』に切り替わっていた。朱美は健在だ。




