海底パイプライン(八十七)
「朱美さんこちらの部屋です」「はぁ」「じゃぁ後はお願いします」
山田は呑気なものだ。本当に場所だけ説明されて朱美は慌てる。
「ねぇ、ここで何をするの?」「さぁ」「えぇっ? さぁって……」
「私は部長から『案内しろ』って言われただけなので、その先は?」
如何にも無責任な言い様。確かに山田に色々言っても、全て無駄になるのを覚悟するのはいつものこと。しかしその説明では、まるで『子供のお使い』ではないか。本人は至って明るいが。
「だとしてもあなた、何か聞いて無いの? ヒントとかぁ」
「朱美さん、部長が私にそんなことを言うと思ってるんですかぁ?」
「ごめんなさい」「でっしょぉ? じゃあ、そぉゆぅことでっ!」
山田はにこやかに行ってしまった。振り返らずに向こうを向いたまま、『何処でも逝ってろ』と舌を出しているなら大したもの。
呑気な山田は、そんなことは一切考えない。帰り道が心配なだけ。
「大丈夫かしら? カードはココに入れて」『ピピッ』「開いたわ」
『琴坂琴美様ですね。お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
何だ? また『変なアルバイト』に募集していたのだろうか。
一抹の不安を抱えつつ、朱美は中に入った。扉は直ぐに閉まってしまい、もう出られそうにない。完全に『嵌められた』と直感する。
「はぁ。やっぱり『そういうこと』なんだわぁ……。まったくっ!」
目の前にあるのは細い通路と、複数の『ロッカー』である。
そしてガラス張りのロッカーに『着替え』があるのだが、それが『凄く見覚えのある衣装』なのだ。朱美は思わず頭を抱える。
「これ、今朝来てた奴と同じじゃないの? この会社、大丈夫ぅ?」
取り出した上下の衣装を見て、朱美はほとほと呆れてしまった。
何しろそれは『メイド服』だったからだ。しかも『徹の秘蔵品』と聞いていたのと瓜二つ。いや、良く見れば『肩の階級章』と『チョーカー』は無い。それと勿論『デンジャー紐』も。当たり前だ。有ってたまるか。あれは『徹専用』なのだから。
『ピンポーン。衣装を着る前に、下着も交換願います』「はぁ?」
見れば入り口に近い方のロッカーで、赤いランプが点滅している。
それは判ったが、許せないのは『案内している声』が『自分の声』であること。どうせ『人工知能三号機』だと言い張るに決まっているが、『勝手に流用しやがって』と言いたい。
『ピンポーン。衣装を着る前に、下着も交換願います』「マジで?」
着替えるまで鳴り続けるのだろうか。自分の声で叱られるとは。
「はいはいはいはい。着替えりゃ良いんでしょぉ? 着替えればぁ」
『ピンポーン。下着はこちらです。さっさと着替えて下さい』
急に変化が。しかも自分が『冷たく言い放つとき』とそっくりだ。
「何だとぉっ! 本人に向かってっ!」『口答えは不要です』
「はぁぁ?」『ピンポーン。衣装を着る前に、下着も交換願います』
変な案内は何回かに一度なのか? 普通の案内に戻った所で朱美は諦める。自分と喧嘩するなんて、頭がおかしくなりそうだ。
「ちっ。判ったわよ」『早くして下さい』「着替えますよぉ」
『時間が迫っています』「着替えますぅ。どれよっ!」『プシュゥ』
扉を開けた瞬間、白い煙が飛び出した。ドライアイスか?
「ちょっ、ナニコレっ! こんな演出要らないからっ!」『どうぞ』
朱美が顔の周りをパタパタすると、見えて来たのはエロイ下着だ。
『履く前に、タオルで汗をよく拭いてから着用願います』「はぁ?」




